2022年総括【映画】

こんにちは、プロムナードギャラリーです。

年1でデュア・リパになりたいと思い、月1でちあきなおみになりたいと思い、毎日概念になりたいと思っています。

 

2022年に見た映画を総括します。

こちらで最後です。

もう5月って本当ですか?

 

【凡例と注記】

・タイトル横の()には製作国を入れています。

・「New Commer」は私自身が2022年に初めて観た監督の映画です。

・「Yester Hits」は、私が2021年以前から観たことのある監督の作品です。

・備忘として「Yester Hits」の最終行に、これまで観た同じ監督の作品を列挙しています。

・ネタバレまみれです。観る可能性のある作品の部分はとばすことをお勧めします。

A. 洋画他

1. New Commer

(1)BURN バーン(アメリカ)

面白く見られた。被害者側が実は危ない人だったという定型通りの話だけど、危ない人側がサイコキラーの男性じゃなく精神的に追い詰められた女性というところが新鮮。

場面展開がないのに、これだけ見せる映画になっているのもすごい。

(2)ミナリ(アメリカ)

おばあちゃんは好きだけど、最後にかけてのくだりはそこまでする必要あったかなと思う。

川べりにセリを摘みに行くシーンは印象的。自分のルーツに対する温かい気持ちが、自然を通して最も純粋な方法で表現されていて良かった。

(3)ワイルド・スピードアメリカ)

人気シリーズだけどこれまで見たことがなかった。車と筋肉がテーマの映画なんて。。と敬遠していたのだけど、WOWOWで一挙放送をやるというので、この機会に見てみようと思った。

冷やかし半分で見始めたのに、序盤からめちゃくちゃ引き込まれ、大変面白く拝見した。謎の敗北感。

(4)ファーザー(イギリス)

家族って難しいよね(月並みオブザイヤー)。

主人公よりも、認知症になっても妹を贔屓し続ける父親の世話をしなければならない娘がかわいそうだと思った。認知症になったことで思考が堂々巡りして、思いやこだわりが意図しない形で表れるところが、人間の卑しさを表していてしんどかった。

最後まで見ても主人公を憐れむ気持ちにはなれない。誰が悪いというのでもないけど、諸行無常だなって。

(5)ライトハウスアメリカ)

聖なる鹿殺しに続くA24のインテリ映画。インテリ部分は理解が及ばなかったけど、面白く見られた。

鳥を殺すシーンとか同僚の粗野な振る舞いとか、生理的に嫌だなと思うところを突いてきて、その嫌悪感が蓄積したものが最後にかけて爆発していくので見応えがあった。

結局一連の出来事の原因が何なのか、主人公の記憶が正しいのか間違っているのかわからないままだけど、最後に灯台の光を間近で眺めるシーンが印象的で、わからないなりに納得感がある。

あとはウィレムデフォーの演技がぶち抜けてて良かった。

(6)5月の花嫁学校(フランス)

女の子たちが可愛かったし言わんとすることはわかった。

最後のシーンでいきなりミュージカルが始まったのは解せなかった。

(7)パーフェクト・プラン 人生逆転のパリ大作戦(フランス)

このシリーズを見るのは3回目。

1作目ほどではなかったが、まとまっていて面白かった。

この制作チームのブラックユーモアは珍しく刺さる。突拍子もないタイミングで畳み掛けてくるので、考える間もなくゲス顔で大笑いしてしまう。今回は、主人公が犬を飼ってる盲目の人の家に不法侵入してベランダの窓を開けたところ、飼い主のいない間に犬がそこから飛び降りてしまい、帰ってきた飼い主は犬がいないことに気づかないというシーンで笑った。言葉にすると不謹慎すぎるけど、元気に飛び出す犬の勢いが良かった。

(8)若草物語(1994)(アメリカ)

2019年のリメイク版(後述)を見たので、併せて見てみようと思った。

30年弱前の映画なので話のテンポが今の感覚にそぐわない部分があったが、根本に素晴らしい原作があり、その原作へのリスペクトが感じられるしっかりした作りだった。

ウィノナライダーはじめ女優陣が綺麗で、衣装も美しく眼福。

(9)サリー・ポッターのパーティー(イギリス)

ネットフリックスシリーズの「ピーキーブラインダーズ」で有能な役をやっていたキリアン・マーフィーが、情けない役をやっていて新鮮だった。

同じ家の中での会話劇なので場面転換はほとんどないのに、最後まで目が離せない。

ラストシーンはちょっと冷めてしまった。LGBTがテーマの映画は増えているけど、筋書きから離れたところで飛び道具的にそういった内容が盛り込まれているのを見るともやっとする。

(10)PITY ある不幸な男(ギリシャポーランド

思わず笑っちゃうような面白いシーンもあったのに、最後が衝撃すぎた。

ブラックコメディはついていけないときとことん置いてけぼりになる。

(11)勝手にしやがれ(フランス)

昔の映画を見たときによく思うことだけど、いろんなベクトルでしっくりこない。作られてから時間が経っていることによる価値観の根本的な違いがあり、その上で登場人物には全く共感できない。

そのセリフをそのシーンで言わせる意味と、全体を通して伝えたいことが汲み取れなかった。

(12)ミシシッピー・バーニングアメリカ)

2022年に見た映画で5本の指に入る。

映画的な面白さと社会的意義を兼ね備えた映画はなかなかないけど、この作品はそうだと思う。

教会が燃やされるシーンが映画のテーマを端的に表しつつ、記憶に残る映像だった。このテーマを伝えるために最適な媒体が映画だったんだなと納得できる。

ウィレムデフォーがちゃんとした役(凶悪犯罪に手を染めたり奇声をあげたりしない)をやっているのを初めて見たのと、フランシスマクドーマンドがまともに美人の奥さん役をやっていてびっくりした。スリービルボードノマドランドの演技が記憶に新しく、アカデミー賞での遠吠えスピーチもなかなか衝撃的だったので、今回の演技とにわかに結びつかなかった。

(13)DUNE/デューン 砂の惑星アメリカ・イギリス・カナダ・ハンガリー

リメイク前のリンチのDUNEを見たことで感動が増した。今の映像技術すごい。この作品は2020年に作られるべき作品だったと思う。リンチもめちゃくちゃ頑張ったけど、技術が追いついていないために製作費だけが嵩んでしまった印象がある。

宇宙戦争ものはスターウォーズしか見たことがなかったけど、DUNEは主人公の貴公子度(?)が高いのが良い。スターウォーズの登場人物は活発だけど、DUNEは主人公が最初から王子で、キャスティングも王子っぽい人をあてている。リメイク前はカイルマクラクランで、リメイク後はティモシーシャラメなので、いつの時代も王子様の人物像というのは変わらないんだなと思った。

しっとりした雰囲気の登場人物と、シンプルで美しい建造物や整然とした空間の取り方などが相まってスタイリッシュな映像になっている。映画として面白いというのはもちろん、プラウドのモデルルームを50軒くらい見学したあとみたいな気持ちになる。

(14)パーフェクト・ケア(イギリス)

ゴーン・ガールが好きなので期待していたが、今回は個人的にそれほどでもなかった。

やられてやり返すのはいいんだけど、やり返し方とシチュエーションに現実味がない。敵の行動の詰めが甘いし、ロザムンドパイクとその恋人が不死身すぎる。

(15)アンホーリー 忌まわしき聖地(アメリカ)

恐怖の対象に姿があると怖くなくなってしまうんだけど、これがそう。最後に化け物が出てきて萎えた。

主人公と地元の女性がくっつくところも安易に感じた。映像頑張った割にはお茶の間サイズのホラーになってしまった感が否めない。

(16)ワンス・アポン・ア・タイム・イン・上海(中国)

浅野忠信チャン・ツィイーが共演しているというので気になって見てみた。

浅野忠信の眼差ししびれる。支配者度100億点。

映画として見応えはあったけど、疲れてしまうのでまた見たいとは思わない。

(17)ウィドウ 怪物の森(ロシア)

ホラー映画は脅かす側の姿形がよくわからない方が怖いと思っているけど、今作では最後まで実態がないものに襲われ続けるためそこがよかった。しかし、襲われている理由が最後まで判然としなかったのが残念だった。伏線になりそうな意味深なカットがたくさんあったのに、回収しきれていない。全部繋がったら最高に怖かったのにと思う。

(18)007 スカイフォールアメリカ・イギリス)

ハビエルバルデムの出演作を初めてちゃんと見たが、めちゃめちゃ演技派。

最後のシーンとか気持ち悪すぎて鳥肌たった。人間の気持ち悪さをあそこまで凝縮して表現できるの本当にすごい。

ボンドガールの定義が曖昧な回だったけど、話が面白かった。

(19)007 スペクター(アメリカ・イギリス)

クリストフ・ヴァルツの圧倒的存在感。出てくるだけで画面が締まるというか、独特の雰囲気がある。

レアセドゥもそう。登場の瞬間から釘付け。

役者に魅力があって話も面白かった。007シリーズで一番好き。

(20)007 / ノー・タイム・トゥ・ダイ(アメリカ・イギリス)

ボヘミアンラプソディでパッション溢れる善人の演技をしていたラミマレックが、ボソボソ喋る極悪人を演じていたので、いろんな役やらなきゃで大変だなって。

オチに衝撃を受けた。思ったよりも悲しくて、アメリカのスパイ映画との違いを感じた。イーサン・ハントにはない繊細さで殴られるので、注意が必要。

(21)パフューム ある人殺しの物語(ドイツ・フランス・スペイン)

007シリーズのベン・ウィショーが主演というので気になって視聴。

ダスティンホフマンが出演していて驚いた。ヨーロッパ映画らしいフェティシズムの表現と、退屈しないストーリー展開の合わせ技で、流れるように全部見てしまった。主人公が最後まで人間性を獲得しないところが良い。

(22)ジェームズ・ボンドとして(アメリカ・イギリス)

6代目ボンド・ダニエルクレイグのドキュメンタリー。

ダニエルクレイグってすごいよ。まずメンタルが鬼。ボンドのキャストが発表されたとき批判の嵐だったらしいんだけど、自分に対する批判的なコメントを全部読んだうえで、前評判を跳ね返す体当たり演技で映画を大成功させたそうだよ。

正直自分もダニエルクレイグがタイプじゃないという理由で007シリーズを見てなかったので猛省。見てみて良かった。シリーズを通して素晴らしい俳優を知ることができたな。

(23)クーリエ:最高機密の運び屋(イギリス)

最初の時点で頬に詰め物してたとはいえ、ラストにかけてのカンバーバッチの痩せっぷりはすごかった。役者って大変だな。

この話は実話を元にしているそうだけど、実話とは思えない無茶振りエピソードで途中から腹がたってきた。セールスマンにスパイをさせるな(元も子もない)

(24)ぶあいそうな手紙(ブラジル)

ブラジル映画って初めて見た。

意図せずいい映画に巡りあった。老人と若い女の子の心の交流というよくあるハートウォーミング設定なんだけど、平凡なテーマを上回る魅力があった。

まずおじいちゃんがやりとりする手紙がめちゃくちゃ知的なのが良くて、女の子も女の子で、彼を伴って街頭のポエトリー対決(?)みたいなのに参加して、言葉を通じて感情を共有する描写がなんともいえず良かった。

(25)博士と彼女のセオリー(イギリス)

原題のまま「セオリー」で良かったのでは(邦題アンチ)

何度も言うようだけど、ハリウッド映画に脳みそを飼い慣らされているので、男女がうまくいかない展開だと気持ちが萎えてしまう。

博士が解き明かしたのが「時間」についての理論だったのが切ないといえば切ないね。時間によっていろんなことが変化したけど、人間そのときどきで幸せの形は違うわけだし、一概に悲しい話とはいえないと気を取り直したりしなかったり〜

(26)パリの調香師 しあわせの香りを探して(フランス)

特に期待しないで見てみたら良い映画だった。

調香師の仕事について初めて知ったので、終始興味を持って見られた。

ベン・ウィショーの変態調香師を見たあとだったこともあり、普通の調香師さんが見られてほっとした。

(27)ヒトラーの贋札(ドイツ・オーストリア

ユダヤ人虐殺と偽札作りという2大テーマがあり、非常に重い内容だった。

映画として話に起伏があったので集中して見られたが、実話が元になっていることを考え始めるとつらい気持ちになる。

(28)ディナー・イン・アメリカアメリカ)

冴えない女の子と不良の男の子のボーイミーツガール映画だと思ったら、想像の斜め上をいくぶっ飛び映画だった。

色々めちゃくちゃだけど、いくところまでいっちゃってるので好感度高い。

(29)秘密への招待状(アメリカ)

不思議な話だったけど好きだな。

良いことも悪いことも、ずっと同じトーンで描かれるのが良い。役者の演技はむしろ感情的なのに演出のトーンが変わらないので、没入するというよりかは客観的に見ているような気持ちになる。

孤児院で息子のように思っていた少年が、あっさり別れを受け入れたシーンが一番切なかった。結局元いた場所に戻ることが自然なんだなと、宿命論的な主張も感じた。

(30)復讐者たち(ドイツ/イスラエル

ヒトラーの贋札」にも出演していたアウグスト・ディールが主演。

こちらも実話に基づく映画で、ホロコーストが題材。

復讐が失敗に終わって本当に良かったけど、女性や子供を含め600万人を殺害しようとする意思を持たざるを得なかった人がいたことを知って、その気持ちに思いを馳せるきっかけになったので、意義のある映画だと思った。

(31)OSS 117 アフリカより愛をこめて(フランス/ベルギー)

007シリーズを履修した後に見たので面白かった。

冒頭の歌のシーンが一番笑った。本編は少しだれた印象。

2. Yester Hits

(1)キャリー (1976)(アメリカ)

リメイク版は見たけど、意外に本家を見ていなかった。

恐ろしいのは心霊現象ではなく人間だよね。宗教を盲信している母親が一番怖かったし、キャリーがその母親にだめにされていく過程がシビアでつらかった。

しれっとトラボルタが出演していて、うまくいかなかった版グリースみたいでおかしかった。

ブライアン・デ・パルマ:ミッションインポッシブル/アンタッチャブル

(2)日の名残り(イギリス)

アンソニーホプキンスのすごさを改めて感じた。

1993年時点で既に初老だったし、ヒロイン役との直接的に接触する描写は全くないのに、恋愛感情がびしびし伝わってきた。

相手の女性を見つめるシーンで動悸が止まらなかった(病気)。眼差しだけでこれだけの感情を伝えられる俳優もそんなにいないと思うわね。

ジェームズ・アイヴォリー君の名前で僕を呼んで/上海の伯爵夫人/モーリス

(3)善き人のためのソナタ(ドイツ)

アカデミー賞受賞作というので気になって見てみた。

題材が題材なので2時間以上かけるべき作品だと理解しているものの、長いと感じてしまった。入り込めなかった要因はキャスティングがリアルすぎて途中からつらくなったこと、東ドイツの圧政とは直接関係のないところで人が死んだことの2点かなと思う。

ハリウッド映画に慣れすぎると、不条理な展開やグラマー美女の不在を受け入れられなくなるので、気をつけなければならない。

フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク:ツーリスト

(4)ドラキュラ (1992)(アメリカ)

ゴッドファーザーの監督作とは思えなかった。衣装や美術は素晴らしかったが、この映画で何をしたかったのか理解が及ばない。ゴシックファンタジー&エロティックホラーをやりたい気持ちは伝わってきたが、映像の解像度が高い割に筋書きに粗があり、個人的には悪趣味に映った。

あとアンソニーホプキンスにあのような下卑た役をあてがわないでほしい。さすがの演技で嫌いになりそうだった。

フランシス・フォード・コッポラゴッドファーザー

(5)刑事ジョン・ブック/目撃者アメリカ)

アーミッシュに興味があったので見て良かった。

親子が事件に巻き込まれる様子とハリソンフォードとの恋愛模様、事件解決までが流れるような筋書きで、面白く見られた。

ピーター・ウィアー:ウェイバック 脱出6500km/トゥルーマン・ショー/いまを生きる

(6)ウエスト・サイド物語アメリカ)

意味なく人が死ぬとイライラしちゃうんだけど、意味なく人が死んだのでイライラした。

あと不良なのにみんなで踊って歌うのが面白かった。

ミュージカルをまじめに見られないので、スタートから負けていた。

画面の色味はさすがだった。ジェッツとシャークスが同じダンス場で踊るシーンで、衣装の色でジェッツかシャークスかわかるようになっているのがすごい。着ているものの違いが、ひいては抗争の根源でもある人種・文化の違いにも結びついていて、色々な意味で効果的。

ロバート・ワイズサウンドオブミュージック

(7)ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語

同じ監督のレディ・バードはそうでもなかったんだけど、今回はシアーシャローナンとティモシーシャラメのもだもだエピソードがうまい具合にコミカルに切なく混ぜ込まれていたと思う。

役者がフレッシュで話の流れも不自然なところがなく、若草物語の現代版解釈という試みが成功していた。

グレタ・ガーウィグレディ・バード

(8)恐怖のメロディアメリカ)

この時代に新しい内容だったのではと思う。

一時期クリントイーストウッドの監督作を集中して見ていたんだけど、どんなテーマでも良い意味で万人受けする娯楽映画を作れる人だと思った。

この作品は初監督作品だったらしく、これまでの大ヒット作をたくさん見た後では初々しく感じる部分もあった。でもこの時代にしては新しい内容だったと思うし、独特の視点が冴え渡っていてさすがだと思う。

クリント・イーストウッド:リチャード・ジュエル/運び屋/15時17分、パリ行きインビクタス硫黄島からの手紙父親たちの星条旗ミスティック・リバートゥルー・クライムマディソン郡の橋パーフェクトワールド

(9)砂の惑星アメリカ)

ティモシーシャラメのリメイク版と勘違いして録画したら、リメイク前のリンチのカルト映画だったので笑った。

カイル・マクラクランをはじめ出演者の何人かが、リンチ監督のツインピークスというドラマにも出演していた役者だった。ツインピークス大好きなので嬉しかった。

多額の製作費を投じた割に全く成功しなかったそうだけど、頑張って作ったことも成功しなかった理由もわかったので悲しくなった。あと、リンチがやりたいことは40年前から変わっていないんだなってこともわかった。映画としての出来不出来の前に、監督の趣味が全開だったので見た甲斐があったと思う。

デヴィッド・リンチ:ラッキー(2017)/マルホランド・ドライブロスト・ハイウェイワイルド・アット・ハートブルーベルベット/エレファントマン/イレイザーヘッド

(10)Summer of 85(フランス)

キラキラBLだと思ったら死についての話だったので、思わず色々考えさせられた。

自分が死んだらお墓の上で踊ってほしいという願望も、恋人の遺体に会うために女装までして火葬場に忍び込む主人公も、あくまで肉体を第一に考えているところが若者らしくて切ない。

フランソワ・オゾン:17歳

(11)007 / カジノ・ロワイヤルアメリカ・イギリス)

ダニエル・クレイグの007シリーズを一挙放送するというので、最初から見てみることにした。

エヴァグリーンが大好きなので、終始眼福だった。最後うまくいかないのはイギリス映画らしい。

後日ダニエルクレイグを特集したドキュメンタリーを見たときに、シャワールームのシーンでヒロインが下着姿でシャワーに打たれているとしていた演出を、服を着たままにするようダニエルクレイグ自身が進言したというエピソードを知ってすごいなと思った。人気シリーズの主役を演じるだけでも大変なのに、作品を客観的に見て自分の考えを製作側に伝える余裕とセンス。ボンド役にふさわしい人だと思う。

実際そのシーンはエヴァグリーンが服を着た状態で撮影されて、下着で撮影するより視聴者に訴えかける映像になっていると思う。気丈に振る舞ってきたヒロインの余裕のない心中が、服を脱ぐことも忘れてシャワーに打たれているという状況に表れているし、その状態の彼女をボンドが抱きしめることで両者の関係が安易なものではないことを象徴していて素晴らしい。

マーティン・キャンベル:レジェンドオブゾロ/マスクオブゾロ

(12)愛と精霊の家(ドイツ・デンマークポルトガル

ほんのりファンタジーなんだけど、一族が歴史に翻弄される大河ドラマでもあり、不思議な映画だった。演技はメリルストリープが全部持って行っていた。慈愛に溢れた役だったけど、腹の底から慈愛が滲み出ていた(?)。やりすぎると嫌味になりそうなものだけど、見ていて泣きそうになるくらい素直な演技だった。さすがにアカデミー賞受賞しすぎでしょと思っていたけど、こういうのを見ると納得する。

ビレ・アウグストレ・ミゼラブル (1998)

(13)ディア・エヴァン・ハンセン(アメリカ)

ミュージカル映画には疎いけど、話題になっていたので気になって見てみた。

最近のブロードウェイって攻めてるよね。内気なキャラクターが主人公というだけでも今まであまり見なかったのに、友人の自殺というテーマでミュージカル作るんだから、もうなんでもありだよ。

スティーヴン・チョボスキー:ウォールフラワー

(14)ライストナイト・イン・ソーホー(イギリス)

クイーンズギャンビットの女優さん、独特の魅力があって目が離せない。

ファンタジックホラーということで、そんなに怖くないだろうと思い見始めたら結構心理的に怖かった。数十年前と現在で時間が交錯しながら話が進んでいくんだけど、大昔じゃなくて微妙に前の時代設定が怖い。シャイニングと同類の恐ろしさ。

シャイニングと違うのは、生まれ変わりではなくご本人が登場するところかな。シャイニング属・思い出のマーニー類。

エドガー・ライトベイビー・ドライバー

(15)オールド(アメリカ)

終始ドキドキしながら見た。

最後にすべての理由がわかってなるほどと思った。種明かしにそこまでの感動はなかったし、これを見て深く考えることもそれほどないけど、映画としてスリリングな展開だったので見て良かったと思う。

M・ナイト・シャマラン:スプリット/ヴィジット/ヴィレッジ/アンブレイカブルスチュアート・リトルシックス・センス

3. 再視聴

(1)ローマの休日アメリカ)

吹き替えが新しくなったと聞いて金ローか何かで見た。テレビアニメの役をやっている時とまったく雰囲気違って、声優さんはすごいなと思った。

全体的に軽やかになったイメージ。池田昌子さんの特徴的なオードリーと重厚感あふれるグレゴリーペックの声も良かったけど、昔の品格を失わないまま現代版に解釈し直して声を当てているかんじが伝わってきて、感動した。

映画の内容については改めて語る必要もないけど、何度見ても良いラストだよね。

ウィリアム・ワイラー:コレクター/ベン・ハー

(2)ゴーストライター(フランス/ドイツ/イギリス)

これは好きすぎて何度も見返している。

元大統領の邸宅がスタイリッシュで、それだけでも見応えがある。

主人公が有能さを発揮してとんとん拍子に真相に近づいていくのも小気味良い。

話の内容も限りなくリアルなので、ラスト5分は何回見てもぞわぞわする。

あとはなんといっても音楽がいい。映画の内容にぴったりの不安を煽る曲で、耳に残っていつまでも不安。音楽がいい映画やアニメは高確率で見返したくなる。

ロマン・ポランスキー:毛皮のヴィーナス/戦場のピアニスト

B. 邦画

1. New Commer

(1)海辺のエトランゼ

少年たちのキラキラ青春プラトニックBLかと思ったら、結構しっかり濡れ場があってびっくりした。

BLの受容度が高まってアニメ化される作品も増えているけど、性描写のリミッターもゆるくなってるように感じられて、いい悪いではなくいちいち驚いてしまう。

(2)大魔神逆襲

ツッコミどころが多すぎて違う視点で見てしまった。

友達が一人川に流されたのに最後までノータッチな子供たちと、村人が酷い目にあっても子供が流されても最後の最後まで助けに来ない大魔神。もっと早い段階で逆襲すべきでは?

(3)エリ・エリ・レマ・サバクタニ

青山真治監督の小説を読んだことがあって面白かったので、どんな映画を作るのかと見てみた。

「謎のウイルスを治癒する音楽」を浅野忠信が演奏するシーンが多く、素人目には退屈だった。なんとなく伝えたいことはわかるけど、難解な音楽を草原で演奏する映像を延々と見続けるのには限界がある。

2. Yester Hits

(1)花束みたいな恋をした

坂元裕二の脚本は最高。

すべてのサブカル女がこの映画を見て号泣したと思う。

もっと二人で話し合えば済んだ話だとは思うけど、「これは自分のための映画だ」と思わせるものがあったので良かった。

土井裕泰ハナミズキ涙そうそう

(2)竜とそばかすの姫

中村佳穂の歌が素晴らしかった。

アニメ映画で声優でなく役者をあてがう文化には懐疑的だけど、成田凌が違和感なく声を当てていてさすがだった。

話は色んなアニメのパロディーみたいで全体的に既視感があったが、意図的にやっていると思うので監督の話を聞いてみたい。

ミレパは優勝していた。

細田守:バケモノの子/おおかみこどもの雨と雪サマーウォーズ時をかける少女

(3)GO (2001)

もう20年以上前の作品だけど、久しぶりにしっくりくる邦画だった。

主人公の置かれた状況を憐れむのではなくて、個人の悲しみにフォーカスしているところが良い。爽快感のある映画だった。

この年齢の窪塚君にしかできない演技だったし、この年齢の柴咲コウは可愛かった。

行定勲リバーズ・エッジ

(4)ときめきに死す

カットやメッセージ性が独特すぎて、作られた当時は先進的な映画だったと思うが、今見ても追いつけない部分がある。

カルト的な人気がありそうなので、この映画の大ファンに会って詳しく話を聞いて、作品の魅力を理解したつもりになってみたい。

森田芳光(君都道幸):間宮兄弟

(5)Avalon アヴァロン(日本)

画面がセピア色で出演者が海外の人なので、終始現実味がない。途中で白黒からカラーに切り替わる映画は見たことがあるけど、セピアのギャリギャリ映像からカラーのスムーズな映像に切り替わる作品はこれが初めてだったので、こんな作り方もあるのかと驚いた。ゲームには疎いのであまり入り込めなかったが、ゲーム好きな人は楽しめるのではと思う。

押井守スカイ・クロラGHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊

(6)犬神家の一族 (1976)

これまで意外に見てこなかったので、見てみて良かった。

正体を明かす青沼静馬は思ったより怖くなく、珠代さんは想像より図太かった。ボートに罠を仕掛けられても懲りずに何度もボートで湖に出るところとか、ヒロインにあるまじき強さ。

市川崑:鍵

2022年総括【文学】

こんにちは。

好きな言葉は晴耕雨読、嫌いな言葉はフリーサイズ、プロムナードギャラリーがお送りしています。

2022年総括読書編です。

全然読めなかったので反省しています。

 

【凡例と注記】

・「New Commer」は私自身が2022年に初めて読んだ作家の本です。

・「Yester Hits」は、私が2021年以前から読んだことのある作家の作品です。

・ネタバレまみれです。読む可能性のある作品の部分はとばすことをお勧めします。

 

A. 日本文学

1. New Commer

(1)凪良ゆう 流浪の月

設定が特殊なので登場人物の心情も先の展開も予測できず、続きが気になって1日で読み終わった。

最後の10頁くらいで一気に種明かしするびっくり箱的な小説じゃないのがよかった。驚きの要素はあったけど、題材に伴う重みがあったので納得感をもって受け止められる。

特殊で重い題材も優しく繊細な視点で書かれているので感情移入できるし、ビターになりすぎず希望のある終わり方なので、多くの人に受け入れられる理由がわかる。

(2)白洲正子 鶴川日記

テレビで白洲次郎・正子夫妻の特集番組を見て、この本を借りてきた。

夫妻はお互いに上流家庭の生まれで美男美女、東京の一等地で生活していたが、先見の明で戦火を逃れて鶴川へ移住し、妻の正子氏は研ぎ澄まされた審美眼で美術品の蒐集にのめり込んでいく。

邸宅で繰り広げられる文化人同士のハイレベルなやり取りや、豊かで満ち足りた交流の模様に圧倒された。こういう人が日本に生きて、確固たる美意識とおおらかな人柄でもって、自宅をサロンのように解放し、文化的交流を育んでいたという事実にただ感動。

 

2. Yester Hits

(1)川上未映子 夏物語

川上未映子の小説は読み始めたら最後、剥がすと痛いとわかっているかさぶたみたいに気になって、最後まで一気に読んでしまう。

今回は貧しさについて考えさせられた。貧乏であることのリアルな質感が言葉で表現されていてさすがだなと思う。

お金がない暮らしについて、否定も肯定もしないところが良い。貧乏でも裕福でも毎日は変わらず流れていくし、調子のいい日も悪い日もあって、そういう点ではみんな平等だと思った。

でも最後の方で、昔住んでいた古いアパートに行くシーンは意味もなく泣けた。貧しさそれ自体に、絶対的な悲しみが含まれているように思う。

(2)村田沙耶香 地球星人

社会の中で日々感じてはいるけどなんとなく見ないふりをしている違和感やストレスを、根っこごと引き摺り出して町中を練り歩いたあと、公衆の面前で股裂きにするみたいな小説を書くよね。

今回は引き摺り出したあとの展開に現実味がなかったので、個人的には奇想天外小説か〜と一歩引いてしまった。

(3)川上弘美 某

自己の認識がちょっと薄い人の話かなくらいに思っていたら、本当に何者でもないものの話だった。

自己認識をテーマに共感を呼ぶ話ではなく、人間では共感できない何者かの話なのが良い。

環境への執着のようなものから人間に変化する個体もいて、オチとしてはそこになるのかとも思ったが、人ではないものが執着を覚えて人間になるという状況に対して「そうか〜」以外の感想がなく、フラットな気持ちで読了した。

川上弘美人間性全捨て小説は、プラスでもマイナスでもない読後感によるかすかな不安と独特のおかしみがあり、しばらくするとまた読みたくなる。

(4)長田弘 食卓一期一会

最近まで詩を読む機会がなかったが、同じ著者の「本を愛しなさい」を読んでから興味が湧いている。

長田弘の詩集は何冊か読んだが、今回も良かった。食べ物のことを書いた本を読むと「美味しそう」「料理のモチベ上がった」みたいな感想になりがちだけど、この本は美味しそうな描写にとどまらず、背景に異国の情景や心の機微が描かれており、食べ物や食べる行為を通した文学的表現の性格が強かった。

料理をしようという気にはならないものの、感情に訴えかけるものがある。

3. 再読

(1)庄司薫 ぼくの大好きな青髭

いつ読んでも悲しい。薫くんシリーズ四部作の中でこれが一番切なくて好き。

私が一番自分に近いなと思う登場人物は薫くんでもシヌヘでもなく、「十字架回収委員会研究会」の人たち。ほぼ同じスタンスで生きてるので、くどくど弁明するシーンを読むと舌噛んでしんじゃいたくなる。

学生運動については小説と映画でしか知らないけど、それが正しいことだったかどうかは別にして、運動に参加した学生のメンタリティには共感する部分がある。私も「マルクス主義が〜」みたいな話をして、頭いいかんじを出したいもんね。

小難しい本を読んで知識をひけらかす自意識の強さに、密かにシンパシーを感じます。

運動自体は不完全燃焼で収束したし、大勢の死傷者を出したことについてはコメントのしようもないけど、当時の学生が運動に夢中になった理由はなんとなくわかる気がして、学生運動をテーマにした作品が好きなんだと思う。

(2)村上春樹 回転木馬のデッド・ヒート

些細なきっかけから決定的な欠陥に気づくけどどうすることもできず、破滅したり受け入れたりやり過ごしたりする話(要約)。

記録によればこの作品は大体5年スパンで読み返しているんだけど、読むたび感想が変わるので時の流れを感じる。

一番最近の感想としては、健全に生きることの難しさを感じたというところ。この短編ほどではないにしても、毎日生きる中で小さな妥協や綻びがたくさんあって、そういうのをどれだけ潰せるか、全部じゃないにしても大事なところを守れるかというところだと思う。

村上春樹の「運命の分かれ目」的描写って感覚的にすごくわかる。1Q84の冒頭で、ヒロインが高速道路の非常階段を降りたことでパラレルワールドに迷い込むところとか、小さい行動の変化がその後の運命を(大体悪い方に)大きく変える、という描写。

この作品でも、直接的に悪ではないが確かに正しくない行動が前提にあって悪いことが起きている。問題が何なのかぼんやりわかっているのに、意識的・無意識的に見て見ぬふりをしている気持ち悪さを感じる。年を経るごとにその気持ち悪さが身に迫ってくるので、これが大人になるということかと思う。

(3)村上春樹 海辺のカフカ 上・下

久しぶりに読み返して、最初に読んだときとずいぶん違う感想を持つようになった。

昔は、佐伯さんが本当に母親だったのか、さくらは本当に姉だったのかが気になって考え続けた結果、どちらも違うだろうという結論に達した。今は、本当にどうだったかは問題ではなく、そうであったかもしれないという可能性が問題なのではないかと思っている。カフカはこれから誰にも囚われず自分の人生を生きるわけだし、その未来は過去の因縁とは切り離されたところにあるものだと思うので。

初めて読んだ時から変わらずに好きなところは、主人公が人里離れたコテージで淡々と過ごす場面。本を読んだり決まった運動メニューをこなしたりして、静かに規則正しく暮らすところがなんともいえず清々しい。案外本筋とは関係のない描写に心を打たれることが多い。

(4)村上春樹 スプートニクの恋人

なんとなく夏から秋にかけて読みたくなる話。ちなみに海辺のカフカは夏に読みたい。世界の終りとハードボイルドワンダーランドは冬、ねじまき鳥クロニクルノルウェイの森は秋、カンガルー日和は4月。村上春樹カレンダー。

前に読んだ時はすみれが帰ってきた喜びで忘れてたけど、今回読み返して結局ミュウの半身が戻ってこないまま話が終わるところがショックだった。

村上春樹の小説は絶対的な善と悪が対立する構図が多く、そこがわかりやすくて好き。実際に起きた事象との因果関係は説明されないけど、感覚的に悪い連鎖と良い連鎖があることがわかる。受け持ちの児童の母親との不倫のように解決されるものもあれば、ミュウの件のように未解決のまま終わるものもあり、そこは単純じゃないのも良い。



B. 外国文学

1. New Commer

(1)リチャード・ブローティガン アメリカの鱒釣り

2022年はブローティガンとの出会いの年だった。

今までなぜ読んでこなかったのか。高校の時に読んでいたら「バイブル」と呼んで憚らなかったと思う(恥ずかしい)。

ヘミングウェイやカーヴァーの作品を読んでいると、父と息子で釣りに行くシーンが結構な割合で出てくる。みんな釣りが好きなんだなぁとぼんやり思っていたけど、この本を読んで理解した。釣りはアメリカ人の心の原風景なんだね。

地域によるとは思うけど、田舎で育った男性なら少年時代の遊びの定番は釣りなのではないか。あらいぐまラスカルでも、スターリングは暇さえあれば釣りをしていた(日本人並感)。

飄々とした文体で、終始アメリカの鱒釣りが語られていて興味深かった。アメリカのこころに近づけたような気がする。

(2)リチャード・ブローティガン 西瓜糖の日々

2022年に読んだブローティガンの作品の中ではこれが一番好きだった。

すべてが西瓜糖で作られた、アイデスという架空のコミューンの話。

外界のものを受け入れず、最低限のもので幸せに暮らすアイデスの住人と、アイデスを出て外に別の共同体を形成した反乱分子と、人間を食べてしまう喋る虎の三種類の立場がある。それぞれが何を暗示しているのか明確にわかるほどの知識はなかったけど、70年台のヒッピー文化を表しているのかなとぼんやり理解した。

時代背景的にも青髭と通ずるところがあるのでは。虎はシヌへを食い物にした大人たち的な立ち位置なのかな。人間、やりたいことだけやって生きていくことはできなくて、理想と現実の残酷なギャップを、青髭では写実的に、西瓜糖では象徴的に描いているというところか。

(3)ローレンス・ブロック編著 短編画廊

何年か前、レストランの店内でエドワード・ホッパーの「ナイトホークス」という絵を見て一目惚れした。

安いコピーを部屋に飾ろうかと思ったが、買う前にホッパーのことをもっと知りたいと思い、この本を手に取った。

アメリカの作家がホッパーの絵をモチーフにして書いた短編が20本弱収録されている。知っている作家はスティーブンキングだけだったけど、知らない作家の作品も含めて面白かった。

写実的かつ幻想的な絵の矛盾とそれに伴う不安を掬い上げて、ストーリーテリングの力で納得のいく形に昇華していく作家陣の手腕。芸術と芸術のぶつかり合いがアツい。

ナイトホークスについての短編は個人的にあまりピンとこなかったので、絵はなんとなく買っていない。ホッパーの違う絵を買うかもしれない。

(4)コンラッド大岡昇平フロベール 闇(百年文庫)

会社の近くの図書館を開拓していて、百年文庫のコーナーの中から一番気になる巻を借りてきた。コンラッド大岡昇平フロベールも読んだことがなかったので勉強になったし、改めてこのシリーズの編纂をする人のセンスはすごいと思った。

特にコンラッドの「進歩の前哨基地」を闇に分類しているのがすごい。話の舞台は南国で明るい感じすらあるのに、そこに赴任した白人の驕りと先住民の底知れない思惑が干渉しあって悪が増幅していく様がまさしく闇。

(5)リチャード・ブローティガン 芝生の復讐

ブローティガン3冊目。鱒釣りと西瓜糖が刺さりすぎて、図書館にある訳書を目についたものから借りていった。

村上春樹を筆頭に、皮肉たっぷりで軽妙な文体の作家が好きな傾向にある。

この前どこかで「20代後半にブローティガンを読んで影響を受けた」と村上春樹が話している記事を読んで、やはり、と納得した。

村上春樹も言っていたけど、文体をそのまま伝える形で翻訳する訳者がすごい。ブローティガンの直近の訳書は藤本和子さんが手がけているが、ちょっとした言い回しがお茶目で印象的で、限りなく原書に近いニュアンスで読ませてもらっているんだろうなと思う。

(6)リチャード・ブローティガン 不運な女

ブローティガン4冊目。2022年に読んだブローティガンはこれで最後。図書館で読める訳書はもう少しありそうだったが、作者の死因(自殺)を知ったことと、それを知った後でこの本を読んでそこはかとなく悲しくなってきてしまったので、これ以上読めなくなってしまった。

好きな作家の晩年が暗すぎる。

(7)ナサニエル・ウエスト いなごの日/クール・ミリオン

ブラックユーモアで正しく笑えたことがない気がする。この話も自分的には正しく悲劇だし、どこにおかしみを見出せば良いのかわからない。

いなごの日:群衆の熱狂が画家を志す主人公の視点で絵画のように描写されるところが良かった。

クール・ミリオン:寓話的要素があるとはいええぐすぎる。主人公がかわいそうな目にあいっぱなしで報われないまま終わるし、そのことに対する特段の教訓もない。暴力的な不条理小説。

あとがきで柴田元幸村上春樹が「この人は自分が何をしたいのかをよくわかっていないかんじがありますよね」「ね」というような対談をしていて、なんだかもう総合的に悲しくなってしまった。

2. Yester Hits

(1)レイモンド・カーヴァー 英雄を謳うまい

作品を楽しむ上でも作家としての来し方を知る上でも、ファイアズの方が面白く読めた。これまでどこにも収録されてこなかった作品を集めた本だったので、読書メーターでみんなが書いていたとおり玄人向けだった。

ソーダクラッカーズ」という詩は好き。カーヴァーの不穏な世界観が好きだけど、苛立ちや不安を描いた作品の合間にこういうポップな詩があるとほっこりする。

(2)ヴァージニア・ウルフ ヴァージニア・ウルフ短篇集

この前に「幕間」を読んだ時も理解が追いつかなかったが、今回も難しかった。

イギリスの慣習に関する知識とイギリス人的共通認識がないと、いつまでも理解できないだろうと思う。

かろうじて一番最初の短編は理解した。親しい人との合言葉と、それにまつわる温かな感情が徐々に失われる悲しさ。いつまでもラピンとラピノヴァではいられないんだな。。

(3)レイモンド・カーヴァー 頼むから静かにしてくれⅠ・Ⅱ

読みやすい作品が多いが、すぐ理解できるゆえに作品のビターな雰囲気にちくちくやられてしまう。

不穏な話は好きだけど、自分の中で落とし所を見つけられないと、気持ちがその方向に際限なく引っ張られてしまう。この本にはそういう作品が多かった。これに落とし所を見つけられるようになるのはまだ先のような気がする。

高校の時に村上春樹が好きな延長で「愛について語るときに我々の語ること」をなんとなく理解して嬉しくなり、大学に入ってすぐ「ウルトラマリン」を読んだが詩に馴染めず、その後も「象」を読もうとするも途中で断念し、長らくカーヴァーからは離れていた。それが社会人になってからなんとなく手に取った「ファイアズ(炎)」が予想外に刺さって、そこから手にとるようになった。面白く感じるものもあればそうでないものもあったが、1冊に1作品は必ず好きだなと思う作品が入っているので、これからも懲りずに読んでみようと思う。これまで理解できなかった作品も、今読んだら違うかもしれない。

そのように開拓と再構築を続けているうちに、カーヴァーのファンになっているような気がする。

3. 再読

(1)サリンジャー 大工よ、屋根の梁を高く上げよ / シーモア-序章

全然進んでいないが、バナナフィッシュというアニメの各話タイトルになった小説を読んで、アニメの内容と比較して考察する試みをしている。

1話のタイトルが「バナナフィッシュにうってつけの日」だったので、グラース一家シリーズの復習をかねて再読。

シーモア-序章は何度読んでも読みづらい。シーモアの思想についてこんなに長々書いてるのに、短編1本であっさり自殺させるのは読者に対して残酷な仕打ちだと思う(シーモアの自殺の理由を虚ろな目で四年以上考え続けている)。

大工よ〜は次男のバディが語り手でそれ以外のグラース家の人は登場しないものの、不在が逆に存在感を際立たせていて面白い。よく考えたらサリンジャーはグラース一家が一堂に会している作品を一つも書いていない。家族の誰かがそこにいない誰かについて話題にする台詞とか、家に置かれたままの兄弟の私物とか、そういう描写だけで在りし日を想像させる。騒々しい一家団欒の様子が手にとるように伝わってくるのに、実は読者の誰もその現場には立ち会っていないのである。。

(2)サリンジャー フラニーとズーイ

3の(1)と同じ理由で再読。

この本を読むと、気に入らないものをリストアップした紙で人型を作って丑三つ時に釘で打ちつけるような生き方をやめて、今目の前にある良いことにフォーカスしようと思えてくる。

2022年総括【音楽②】

こんにちは。

2022年総括音楽編第二回、ボーカロイドの部を始めます。

 

【凡例と注記】

・ボカコレはニコニコ動画に付随する音楽再生アプリであり、筆者はニコ動にアップされた曲単体をアプリにダウンロードして蓄積しています。そのためAppleMusicの回とは異なり、「アルバム」の章立てはありません。

・「P」はAppleMusicの部の「アーティスト」と同義です。

・「歌い手」はボーカロイドのオリジナル曲を歌でカバーする人のことを指します。歌い手によるカバー動画は「歌ってみた」と呼ばれています。

・「P」「歌い手」の章立ての直下に、2022年に聞いた該当の曲のリンクを貼り付けています。

・市場規模の違いから、昨今はYouTubeへも曲をアップされている作者さんが多いですが、私は古のオタクですので、ニコ動市場が復興するように願いを込めてニコ動のリンクを貼っています。みんなでニコ動の再生回数を伸ばしましょう(?)

B. ボカコレ

1. P

a. Yester Hits

(1) r-906

まにまに スーパーノヴァ ノウナイディスコ

2021年秋、アイソトープで撃ち抜かれて追いかけ始めた。

まにまには大変な完成度だったな。ボーカルは同じフレーズの繰り返しだし、インスト部分がかなり多いのに、歌詞や音の配置にはっとする部分が散りばめられており退屈とは無縁。100万回研いだ包丁並みに鋭いフレーズが持ち味だけど、そのフレーズを起点に世にもエモーショナルな曲に仕上げてくるので、聞き終わるごとに血塗れで涙を流している。

ノウナイディスコはモノクロセンスとかパノプティコンとか過去曲の片鱗が見えたけど、スーパーノヴァを聞いたときは結構衝撃だった。こんなポップな曲を作ってしまったら血塗れフリークが増えちゃうよ。。

(2) 煮ル果実

ヘブンドープ

不健全ニヒル非道徳的パニック映画みたいな煮ル果実さんの曲が好きなんですよ。全ての要素を満たしつつ新境地を見せつけられてスタンディングオベーション

特徴的なフレーズを繰り返す曲が多かったけど、今回は多彩なメロディーと展開があり音の抜き差しの演出も完璧で参った、まるでアナタ、悪魔みたいだネ。。。

(3) 水科みり

黒い電流 愛の御前

唇に毒が好きでしばらく聞いていたが、その後追えていなかった。

「黒い電流」って表現がキラーフレーズすぎる。歌詞だけで文学だし音楽と合わせて総合芸術。

ショートヘアをグレイッシュに染めてオーバーサイズのジャケットを着た飲み会帰りのイケイケお姉さん@午前1時みたいな雰囲気があり、自分とはかけ離れてるんだけど聞くだけでそういう人になったような気になれるので、音楽っていいですよね。

愛の御前は自分で歌われている。この人がこの曲を作りこの曲を歌う必然性がすごい。しなだれかかるようで自立していて、艶やかなようで淡白で、1曲の中で心情の繊細な移ろいを巧みに表現している。自作の曲だからできることであり、シンガーソングライターの真髄がここにある。

(4) ツミキ

カルチャ

ツミキさんが気づいたら新しいユニットで活動し始めていて、ボカロから離れていくのかと思いきやこの曲が投下され大歓喜

ニコ動の概要欄

いにしえのオタクだから、コメントを読みながら目頭が熱くなった。

砂の惑星ムーブ(ニコニコ動画からより広範な市場へ羽ばたいたボカロPがたまに原点回帰する意)だな。

ずっとグレー基調の静止画だったPVが動画になり色がついて、今回は目にも鮮やかな赤と黄色のチカチカPVになったの、音楽性が豊かになっていく過程がそのまま現れているかんじがある。

(5) ワンダフル☆オポチュニティ!

にっこり^^調査隊のテーマ

音ゲー下手くそすぎてプロセカを楽しめず、意地になってリンレンバージョンの音源だけ永遠に聞き続けてたの本当にアホ。

ワンオポは要点しか押さえてないけど定期的にはまる。

2020年 右NOU左NOU

2017年 インフルエンサー・イズ・デッド

2015年 すげえアプリ開発中

2014年 鬼KYOKAN ぼうけんのしょがきえました

2013年 しんでしまうとはなさけない!

2011年 リモコン

何年経っても良い意味で変わらないバイブスとリンレンへの原始的愛情。初期のボカロの、曲の魅力がクリプトン製ボーカロイドのキャラクターに依拠しているあのかんじを維持しているところがいい。

(6) Lady Mellow.

霊媒ジャンキー うらめし案件

YouTubeのおすすめのお陰で知ったアーティスト。ファーストアルバム(Smoking hot)は何回も聞いた。中性的で色気のあるボーカルと圧倒的メロディメイクのセンスで、足を止めて聞き入らざるを得ない。

ご本人の音域が鬼のように広い。最初歌い手の灯油さんが別名義で活動し始めたのかと思った。力まずに美しい高音が出るのと、同じ密度で低音も歌える男性が灯油さん以外にもいることに驚いた。

きっぱり音を当てにいくのではなく、刷毛で撫でるようにレガートで歌う歌い方も好き。どんな曲を歌っても上品。

うらめし案件ではじめてしっかりボカロバージョンを聞いたけど、ボカロが歌ってもLady Mellow節が健在で、改めてボーカルも曲も大好きだなと思いました。

(7) じん

GURU ヘンシン

以前もカゲプロ以外の曲が投稿されることはあったけど、GURUが投稿されたときこれまでとの違いが明確に感じられて、新しく何かがはじまった感じがした。

IAじゃなくて可不を使っていて、曲調も方向性も今までとまったく違うのに、再生数めちゃくちゃ伸びてたのがさすがだった。それもネームバリューで伸びてるのではなく、純粋に曲が良くて伸びてるのがわかってよかった。

ヘンシンはすごくじんさんぽいけど、GURUを挟むことで意味合いが変わってくると思う。夏は夏でもカゲプロの夏は終わったんだなあ…

(8) john

キャサリン

AメロBメロのシンコペーションが好きすぎる。

一貫してダウナーな曲を作る人ってボカロPでもあまり見かけない昨今、johnさんは救世主。この調子で世界を睨め付けながら悪い曲ばっかり書いてほしい。

(9) 平田義久

バケモノバッター

平田さんの曲はおおまかに光の部と闇の部に分類できる。どっちも最高なので全部聞いてください。

〈光の部〉

翼のない天使や東横線など、初期の曲をはじめとするグループ。

優美でエキゾチックなメロディが特徴で、聞き続けると地中海の白亜の街が見える。

エキゾチックはそのままにビートとラップを付加した飛燕なども昼の部の代表作。精神を漂白したいときにおすすめの爽やかな曲です。サビでは音量をツープッシュ上げましょう。

〈闇の部〉

東京は夜を起点とする闇の部は、対象年齢が爆上がりしてアダルティな雰囲気。

首都圏清掃整理促進運動などは代表格で、ジャジーなおしゃれサウンドに心を打たれて近づいていくと、社会と人生そのものに対する怒りがマックス充填された歌詞で張り倒される。

野球の歌だ!と思ったら偏向報道の最前線でライカを構えるカメラマンや夏の東京で労働を強いられるギリギリワーカーなどが登場するアヤカシライダーの闇深さも一興。

今回のバケモノバッターも期待を裏切らないダウナー感で、闇の部の仲間入りを果たしました。

 

映画やアニメの場面描写や、一般人には思いつけないような固有名詞が歌詞に多用されており、教養が感じられて動悸がする(病気)。

フリクリは見たことないので、今度見てみようと思います。

(10) 栗山夕璃

パープルハイプ

「ショ・ショ・ショ・ショウウィンドウ」が好きすぎて何回もリピートしちゃう。

この方もjohnさんと同じく世界爆ぜろと思いながら作曲してそう。

蜂屋ななしが引退すると聞いた時ショックで膝から崩れそうだったけど、栗山夕璃名義でまた曲を出してくれて歓喜

今後も末永く爆ぜろソングを作り続けてほしい。

(11) 村上蔵馬

昨日のパレード 人外 GOコロンビア Lilisu

不革命前夜でNEEを知ったあとに村上蔵馬名義でボカロpをやっていることを知り、ニコ動を巡回。

NEEの曲のボカロ版も聞けたし、ボカロのオリジナルがおいしかった。NEEのときはカラカラのバンドサウンドが不健全な雰囲気を爽やかに昇華してるかんじがあるが、バンドが噛まないと逃げ場がなくなって最高。曲の閉塞感と怪しいPVで不安感がマックス。もっとやってほしい。

(12) 柊マグネタイト

ラボ・ラトリ

旧約汎化街的変態曲(褒めてる)を挟みながら、マーシャル・マキシマイザーのようなポップな曲をコンスタントに出してくれるので感謝。

音圧と思想が強い曲も大好きだけど、ラボラトリはポップ枠で聞きやすいので何度も聞けて嬉しい。間奏はしっかり音圧で攻めてきて、抜き差しの塩梅が最高。

(13) ナナホシ管弦楽団

遠心力

久しぶりに新曲を見つけて胸熱。しかも今回の曲はいつもと違う雰囲気だったので、さすがだなと思った。

ボカロpのいいところは、メジャーデビューしない限り忖度なしに自分の好きな音楽を作れるところだと思っていて、だからこそそれまでの創作で確立した雰囲気とか曲調を捨てていろんな曲を作る人を見ると本当にすごいなと思う。

ナナホシ管弦楽団は歪んだギターのギラギラロックチューンが代名詞だったけど、今回はキラキラエレクトロポップなのでびっくりした。どっちも大好きだよ。

(14) 密航手引

花束はいらない

一昨年、YouTubeのおすすめで突然現れた夏はとうに死んでしまったを聞いて、すごい人が出てきたなと思った。名前が不穏すぎてずっと覚えていたので、ニコ動で新曲を見つけて嬉しかった。

初めて聞くと混乱するけど、何度も聞いてるとだんだん癖になってくる。

音楽理論を掌握した上で崩してそうでかっこいい。神の領域。

もう少し一般人にも理解できる部分を増やしたら一気にブレイクしそうだけど、私だけが知っていたいのでもう少しこのままでいてほしい。

(15) 清水コウ

電脳感染

久しぶりにニコ動を開いたタイミングでランキングにこの曲が上がっていて、メアの教育の人だ!と懐かしくなった。シリーズ曲は最初の数曲しか追えてなかったけど、曲調と雰囲気が好きだった。

わざとコードから外れた特徴的なメロディーと、定石通りの展開が絶妙に入り混じるので、最初は捉えどころのない曲だなと思うのに気づいたら癖になっている。

 

b. New Commer

(1) シャノン

四十九日 僕らの最終戦争 おおきくなった恐竜 魚類による考古学 ヨミクダリの灯 青へ向かう わたしは水になる 七月十九日は永遠に アンダーグラウンドと地生魚

2022年一番はまったボカロp。

ジャズっぽいアレンジに西洋みを感じるけど、根底に日本的な感性があり、世界観が深遠。

死についての曲が多いし音階が民謡みたいなので、ずっと聞いているとどこかに連れていかれそうで怖い。

これが単なる怖い民話的な立ち位置の音楽にとどまらないのは、洗練されたアレンジとたまに入ってくる現代的な音のおかげだと思う。怖い音階とEDMerが使うような電子音が混ざり合って、えもいわれぬ聞き心地。これがあるおかげで今が21世紀であることを思い出せるし、音楽的にも新しいアプローチで曲のレベルを引き上げているかんじがある。

〈ナウでDOPEなアプローチ〉

・ヨミクダリの灯 サビ(0:59〜)・間奏(2:09〜)

・魚類による考古学 間奏(0:47〜)など

アンダーグラウンドと地生魚 間奏(0:40〜)・サビ(1:48〜)など

 

少し前に深夜徘徊をランキングかどこかで見つけて、都会の夜エモいエモいソングだと思って聞き流してしまった自分を張り倒したい。四十九日がアップされた時点で魅力に気づけて良かった。それすらも最初そこまで気にしていなくて、3回目くらいで「あれ、これは」と思ったので、判断は急がない方が良い。

一聴してすぐ好きだとわかる音楽と、何回も聞いてじわじわ好きになる音楽があって、前者は飽きるのが早いけど後者はあまり飽きない。

シャノンさんはじわじわ系の仲間入りを果たしました。

〈じわじわ名簿 最終更新:2022.9.5〉

・トーマ エンヴィキャットウォーク

Kimbra Settle Down

・春野 深昏睡

折坂悠太 平成

中村佳穂 get back

家主 カメラ

神聖かまってちゃん 僕の戦争

・シャノン 四十九日

(2) Picdo

桃源郷へ行こう 隕石が落ちてきた ライアーライダー

切なさを100倍濃縮還元したコードとレトロな音作りが良い。意味もなく泣きそうになる。

(3) 南ノ南

可不ちゃんのカレーうどん狂騒曲 星界ちゃんと可不ちゃんのおつかい合騒曲

ニコ動界隈の変なパッションを凝縮したような曲で、そこはかとなく懐かしい。

歌詞の元ネタは半分もわかってないけど、勢いがすごいのでなんか笑う。いい曲だしね。

(4) メドミア

絶対敵対メチャキライヤー ナラキスト

お名前だけ存じ上げていたがこれまで聞いたことなかった。10年前ならむしろ好んで聞いていた音圧強めの曲が、最近疲れてしまってあまり聞けない(歳)。サムネを見てっょぃ曲ばかりなんだろうなと思っていたが、この2曲はとても好きだった。っょくてもテンポが軽快だと聞ける(五・七・五)

(5) ¿?shimon

ストレンジ ルシファー

音圧強い系だけど、緩急があるので聞きやすい。

Lady Mellowと一緒でセルフカバーが最適解にして芸術。

ラップとかセリフとか、音が決まってないところを歌うのって明確にビジョンがないと自然に聞こえなくて難しいと思うんだけど、ここはこうきてほしいと思うところにドンピシャというか、それ以上のものが提供されるのでびっくり。

 

2. オリジナル曲

(1) 朽ちた神

視聴者それぞれの神が現れる2分半の顕現節。私は暗い森林とシシガミ様が見えた。

ビートはヒップホップ系だけど、世界観が独特すぎてヒップホップが負けてる。

歌い手のxeaさん(後述)に書き下ろした曲だったみたい。xeaさんに、というのがもう素敵だし、GUMI歌唱バージョンの方が歌い方の癖強いのが面白い。

(2) プリズマ

開始3秒で心掴まれた。80年代の歌謡曲大好きだから好きに決まってるよね。

サビの「ジグザグ」の半音で降りてくるところが好きすぎて発狂しそう。

(3) ロンリージャンキーダンス

イカれた感情に」と「毒されたいのに」の間の「テッテレッテッテ」が好き。

(4) Navy

清涼感の塊。前奏は三ツ矢サイダーの泡が弾ける音だよね(幻聴)。

音程的にサビで盛り上がるわけじゃないのに、ボーカルとビートとシンセが渾然一体となって全体で高まる仕上がりになっているのが素晴らしい。

(5) ポーション

奥行きがえぐい。

全部の音が絶妙なニュアンスで違う動きをしつつ、全体で見ると調和していてすごい。

 

3. 歌い手

a. Yester Hits

(1) sekai

僕らの最終戦争 ver.sekai おおきくなった恐竜 - Cover ヨミクダリの灯 - Cover

sekaiさんがシャノンさんの曲を3曲も歌っているのを発見した時はめちゃくちゃ動揺した。こんな贅沢なことない。

高い音で声を張って歌われるイメージがあったのでそのつもりで聞き始めたら、オクターブ下ではじまったのでびっくりした。中性的で尊かった。

(2) 七滝今

わたしは水になる 歌ってみた ヨミクダリの灯 歌ってみた

シャノンさんの曲の歌ってみたを探していたとき七滝さんのお名前があってさすが。。と思った。選曲が素晴らしい。

歌の雰囲気が特徴的な歌い手さんは、毎回いろんな曲をカバーする中で自分の声と曲の雰囲気をマッチさせるのが大変だと思うんだけど、この方は毎回大成功を収めていらして素晴らしい。自分の強みを理解して、それを生かせる曲を逆算して選曲している気がする。歌い方が独特でオリジナル準拠ではないんだけど、曲と歌の方向性が根本で一致しているので違和感がなく、毎回曲の魅力を再発見できる。

(3) しゃも

ヘブンドープ【しゃも】

いつも曲の解釈が素晴らしい。この曲はしゃもさんの解釈が一番思っていたものに近くて聞きやすかった。

ボカロオリジナル曲の歌ってみたはボーカロイドの抑揚を人間の自然な抑揚に落とし込むのが大変そうだなと思うんだけど、違和感なく落とし込みながら曲の魅力を最大化していてすごい。

久しぶりにお見かけしたので懐かしくなり、初めて聞いたしゃもさんの動画まで遡ったら、投稿されたのが10年前だったので携帯を投げそうになった。

(4) ちょまいよ

「NIGHT DANCER」 歌ってみた

ちょまいよさんのお陰でまたチルソングを知ることができた。

優しいんだけどちょっとハスキーな声が、絶妙な抜け感を生み出している。伸ばして止めるとき「っ」って詰まる一瞬とか、喉に突っ掛ける発声が好き(変態)

(5) ジェム

【わたしは水になる 歌ってみた】

この曲の歌ってみたを探していて、久しぶりにお見かけした。

可愛らしい声だけど深みがあるので、歌える歌の幅が広い。

10年弱前に純情スカートを延々と聞いていた時期があったんだけど、今回はより落ち着いた雰囲気で別の魅力を垣間見た。でも間奏のスキャットが私の知っているジェムさんだったので安心した。

(6) xea

ヨミクダリの灯 歌ってみた 終わっちゃうが繰り返す / cover 

少し前にマーシャル・マキシマイザーを聞いてどはまりした。

ヨミクダリの灯を歌ってらっしゃるのには驚いた。選曲の幅が広い。

声が綺麗なのですぐにでも界隈のアイドルになれそうなのに、ちょっと癖のある選曲をされていたり朽ちた神(前述)みたいな楽曲提供があったりして、アイドルにとどまらないアイデンティティーを感じる。

b. New Commer

(1) 弱酸性

おおきくなった恐竜 歌ってみた カルチャ 歌ってみた Untouchable 歌ってみた

どの曲でも自然に自分のものにしていくかんじが素晴らしい。

アレンジありの歌ってみたは賛否が分かれやすいけど、この方のアレンジが嫌な人はいないんじゃないかな。原曲へのリスペクトと違和感を感じさせない自然さがある。自分のアレンジを登用しつつ、曲の流れを阻害しない音像が最初から見えているか、または両方が生きる微妙なラインを研究しているのではないかと思う。アレンジしているのに安定感があって、元からそういう曲だったように聞こえるからすごい。

選曲センスも素晴らしい。個人的に好きな曲を歌ってくれるばかりでなく、これまで知らなかった曲に出会わせてくれるので嬉しい。

(2) 青妃らめ

まにまに 歌ってみた アヤカシライダー 歌ってみた ヘブンドープ 歌ってみた

声の魅力が強すぎて全部持っていかれる。

まにまには歌部分が少ないので、歌い手さんはその中で個々の表現をするのが大変だろうなと思うけど、この方は声の魅力と表現力がすごいのでめちゃくちゃ印象に残る。個人的にまにまには青妃らめさんの歌ってみたが一番好き。

(3) tejisho

四十九日 歌ってみた. 8.32 歌ってみた. ポストシェルター 歌ってみた.

四十九日の歌ってみたで知ったんだけど、声質が大勝利しているのでまっすぐ歌うだけで色々なものが伝わってくる。

ソフトな可愛らしい声と、張り上げて歌うときの力強い声と、淡々と無感動に歌うときに際立つ乾いた声質を駆使して様々な曲を歌われておりどれも最高。

もっと有名になるべき。

(4) 柚子奈(ゆずな)

魚類による考古学_シャノン cover

この曲を歌える人がいると思わなかったのでびっくりしたし、ただ歌えるだけでなく作品を別次元に昇華させていて素晴らしい。歌が上手な人はたくさんいるけど、曲全体の雰囲気ごと良い方向にもっていける人はあまりいないので感動。歌ってみた文化の意義を体現している。

機械が歌ったものを人間が新たな解釈で歌い直すことによって曲の魅力が拡大し、原曲を起点とした創作の可能性が無限に広がっていく素晴らしさ。

嗚呼ボーカロイド、斯くも深遠なサブカルチャー

 

音楽の部は以上で終了です。ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

次回、2022年総括・読書の部でお会いしましょう。

2022年総括【音楽①】

ーーーMaison desも10年後にはタワマン

 

こんにちは。

2023年も3ヶ月目のこのタイミングで、2022年の総括をやろうというわけですけどね。

まずは音楽から。

いつもAppleMusicとボカコレを使っているので、2022年に聞いた音楽をアプリ別に振り返ります。

 

【凡例と注記】

・結構な分量になったので、こちらはAppleMusicの部のみの記事となります。ボカコレの部は次回です。

・「New Commer」は2022年にデビューしたアーティスト・リリースされた曲という意味ではなく、私自身が2022年に初めて聞いたアーティスト・楽曲を指します。

・「Yester Hits」も、私が2021年以前から知っているアーティストの作品という意味です。

YouTubeで合法的に視聴できるものにはYouTubeの、そうでないものにはAppleMusicのリンクを貼っています。よろしければご覧ください。

・「音楽をきく」の正しい表記は「聴く」ですが、小学校の先生が「『聴く』という字は『耳+(足す)目、心』なんですよ、人の話をきく時は『聞く』のではなく『聴』きましょう」とドヤ顔で話していて、まず「目」の上の十字になっている部分を「プラス」と捉えるところが寒いし、漢字の正しい成り立ちを無視した勝手な再解釈をしたり顔で子供に教えていることに対して違和感を覚え、それ以来「聴」の字を見るとなんとなく嫌な気持ちになるという経緯があり、この記事でも頑なに「聞く」で通しています。

A. AppleMusic

1. 邦楽

a. アーティスト

(1) New Commer

(A) 神聖かまってちゃん

名前だけ知っていてちゃんと聞いたことがなかったが、進撃の巨人のオープニングテーマをきっかけに深掘りしたら沼だった。

個人的に、僕の戦争は今までに聞いた主題歌の中で一番だと思った。作品の世界観を表すだけにとどまらず、地獄を極限まで増幅していて大好き。

進撃はアニメ派だからその後の展開を知らないんだけど、原作を最後まで読んだ友達が奥行きのない目をしていたので大体察した。ファイナルの前編は怖くてまだ見られていない。

僕の戦争を皮切りに児童カルテツン×デレの2枚をダウンロードしたがこれも最高だった。

最初はボーカルの狂ったテンションに衝撃を受けたが、めちゃくちゃに歌っても大崩れしない安定感と高い音楽性でアーティストとしての地位を確立しているのが伝わった。

一番好きな曲はトンネル。ノリツッコミするところが最高だし、不条理な短編小説みたいなテーマ性があり深い(トンネルだけに)。

(B) 鋭児

SpincoasterというYouTubeチャンネルで、ライブ映像を見て知ったアーティスト。スキンヘッドのやばそうなボーカルがやばいバイブスを醸していたので、これはと思ってAppleMusicでダウンロードした。

その時点でアップされている曲は全曲聞いたけど、全部刺さった。

地下のクラブで流れてそうな不健全な雰囲気と洗練されたメロディーが同居しており、背徳的な快感に浸れる。クラブには行ったことがないけど、ZionVRクラブだし天国へだって飛べる

(C) 羊文学

友達に勧められて聞いてみたらとてもよかった。

メンバーと年齢が近いと知ったからかもしれないけど、全ての曲がとても親密に感じられる。この曲を作る感性を知っているし、この曲が好きな人たちのこともよく知っている気がする。

『分断の世代における連帯意識〜羊文学から見る社会〜』とかいう論文が書けそう(書けない)

(D) さらさ

令和の宇多田ヒカルという異名のある女性アーティストはたくさんいそうだけど、この方もその一角をなしていると思う。クールでロマンチックで非常に良い。

休日に岩本町のあたりを散歩してるときにネイルの島を聞いたら、大変趣深かったので共有です。人がいないオフィス街の雰囲気にぴったり。

(2) Yester Hits

(A) TOOBOE

ファーストアルバムの千秋楽がリリースされてずっと聞いていた。ファーストアルバムのタイトルが「千秋楽」なの、キレキレだよね。

最初はjohnのファンだったのでTOOBOEの方はマークしていなかったけど、こちらはこちらで違う魅力がある。刺々しい曲が多いので、ボーカロイドが歌うと留保のないシビアな雰囲気になるところ、ご本人が歌うと声に複数の感情が乗り、解釈の余地が生まれている。どっちも好きなんですけどね。

秋にリリースされた錠剤も良かった。チェンソーマンのOPEDとそのアーティストの過去曲を集めたプレイリストを作ったので、2022年はjohnとTOOBOEをたくさん聞いた年だった。

(B) Eve

歌い手の頃から聞いていたんですけどね(古参アピ)、作曲を始めてからアニメの主題歌などで引っ張りだこの様子を見て、父兄の気持ちで涙を拭っている。

2022年の春頃にアヴァンのシングルがリリースされて、すぐあとにアルバムが出た。まずアヴァンが好きすぎてめちゃくちゃ聞いた。イントロの警報みたいなギターと、サビの「期待 後悔を」の「を」が「想いも声も」の「も」から1音下がるところが好き(ピンポイント)

廻人もよかった。呪術のオープニングで毎回飛ばさずに聞いてた廻廻奇譚はやはり最高だったし、暴徒退屈を再演しないでが好き。夜は仄かから遊生夢死の流れも刺さった。

そして最後にアヴァンでトドメ。2曲目でなく最後に持ってくる選択も大好きだし、これは2曲目じゃないかと思わせる曲がアルバムの中に2曲あることがすごい。

音域が広すぎて高い音で歌っても全然つらそうに聞こえないけど、自分で作曲した曲だとそれが良い方向へ作用していて素晴らしい。音域目一杯使って表現が豊かなのはもちろん、正確で無機質な歌い方が曲の世界観の一部になっていると思う。

音域が広すぎるゆえに一般人がカラオケで歌えないのが玉に瑕。

b. アルバム/EP

(1) New Commer

(A) AINOU 中村佳穂

YouTubeでライブ映像を見て衝撃を受け、AppleMusicに直行した。

少し前からアルバム単位で曲を聞くようにしているんだけど、AINOUについてはそういう意識づけなしに気づいたら最後まで聞いている。

アルバム全体を好きになると、曲をどの順番で並べてどういう風に聞かせるかという、アーティスト側の意図を正しく汲み取れたことに対する喜びがある。曲単体を好きになった時よりも、アーティストに近づけた気がして嬉しい。

〈通しで聞きたいアルバム名簿 最終更新:2023.1.8〉

 ・YANKEE 米津玄師

 ・Vows Kimbra

 ・PASSION BLUE 土岐麻子

 ・vivid kiki vivi lily

 ・Fine Line ハリースタイルズ

 ・ゴーストアルバム Tempalay

 ・3 KIRINJI

 ・cherish KIRINJI

 ・愛をあるだけ、すべて KIRINJI

 ・平成 折坂悠太

 ・ジェニースター ジェニーハイ

 ・AINOU 中村佳穂

 ・心理 折坂悠太

 ・生活の礎 家主

 ・Cape God Allie X

 ・Conditions Of A Punk half・alive

(B) 生活の礎 家主

AppleMusicでエンドレス再生モードにしていたらお湯の中にナイフが流れてきて、速攻でアルバムごとダウンロードした。

音楽形態としてのバンドの傾向(方向性を一にした音楽好きフェローが集い、音楽って最高!!というパッションで世界を救う)にあまり共感できていないんだけど、家主は歌詞が孤独で後ろ向きで、それを救おうとしていないので笑顔で聞いてる。救う気がない曲に救われることもある。変わるために〜変わることをやめた〜〜

要所要所に出てくるコードが胸を抉る切なさ。お湯の中にナイフの「いつだって遠くに見えるはずのない」の「遠くに」のところとかやばい。

一番好きなのは茗荷谷。数ある街の中から茗荷谷をチョイスするんだもんなあ。

(C) 微笑 NIKO NIKO TAN TAN

不思議アルバム。高次元すぎて理解が追いつかない。

パラサイトとか祭囃子鳴っているわとか冒頭から不安になるけど、サビまでにきっちり伏線回収してくれるので安心する。緊張と緩和の繰り返しでなんとなく最後まで聞いてしまう。

コンフィデンスコンフィデンスコンコンフィデンスフィデンス…

(D) Let's Go! DSDC! Deep Sea Diving Club

5曲目のFLACTALがめちゃくちゃ好き。サビが切なすぎる。

他の曲でフィーチャリングが豪華なのも嬉しい。Rin音やキキビビちゃんの歌をここで聞けるとは思わなかった。

(2) Yester Hits

(A) 心理 折坂悠太

平成とは別ベクトルで好きなアルバム。

アルバム全体を咀嚼しきるまでに時間を要したが、聞き続けたら馴染んだ。

アップテンポで不穏な曲が好きなので荼毘が好きなのは当然として、その他の曲も徐々に耳に馴染むのはどうしてなのか、我々はその謎を解明するため、アマゾンの奥地へと(略)

折坂悠太の曲には、自分の一部と呼応するような親密さを感じる。民謡っぽいメロディーとリズムが、日本人のDNAに訴えてくるのかもしれない。細胞レベルで掴まれていると思うと冷静に怖い。

(B) ざわめき 折坂悠太

一番好きなのは呼び名だけど、芍薬の終わりからの入りとか、口無しでクールダウンするところとか、ざわめきのエンドロール感も好きだな。

会社で華道部に入っていて、気が向くと参加して花を持ち帰って家で生け直すんだけど、芍薬を持ち帰った日に脳内常駐の折坂悠太が「ッ芍薬芍薬ッ夏の雲はシャクヤーク!!!」と叫び始めて面白くなってしまい、それから家で花を生ける時はこのEPをBGMにしている。

5曲で20分なので移動中に聞くには短いが、花を生けるにはちょうどいい長さ。

(C) THE BAND OF 20TH CENTURY: Nippon Columbia Years 1991-2001 ピチカート・ファイヴ

東京は夜の七時だけ知っていて他の曲も気になっていたが、なかなか聞けていなかった。聞く前から好きなことがわかっていると、買った本みたいに後回しにしがち。

日本コロムビアの親会社が運営するBAROOMという施設で、このアルバムのドーナツ盤を聞くイベントがあると知り、思いきってチケットを取った。イベントまでの2週間、体育会系と見紛うばかりのストイックさでアルバムを聞き込んだ。

予想どおり全部好きだったけど、三月生まれトウキョウ・モナムール大都会交響楽が特に好き。

イベントは渋谷系リアル世代の先輩方が大半だったので完全アウェイだったけど、大音量で曲が聞けて楽しかった。

参加者のリクエストした曲を流していく形式だったので、アメリカではをリクエストしようかと思ったが、野宮真貴さんガチ勢の諸先輩方に刺されそうなのでやめた。

(D) LENS Kroi

1曲目だけうっすら知ってて、どんなものかとダウンロードした。

快活な曲と伸びたトドみたいな曲が良いバランスで配置されており、ずっと聞いていられる。

一番好きなのは8曲目の侵攻(伸びたトド枠)

c. 曲

(1) New Commer

(A) New World Believer 鯱

前述の鋭児のボーカルがやっている別ユニット。

始まり方がかっこ良すぎだし、最初から最後まで置くだけファルセット(?)で通すところも好き。

なんといってもあの切ないコード進行。このループの中に住みたい。

(B) さよならクレール 中村佳穂

不思議な曲だけどスケールが大きくて聞き応えがある。

中村佳穂ちゃんが中村佳穂ちゃんというアーティストになってくれたことに対して毎日感謝している。これだけのグルーブ感があれば第二のEGO-WRAPPIN’になれただろうし、これだけの歌唱力があれば第二のMISIAになれただろうし、この歌声があれば大衆向けのポップソングでもうまく歌えるのに、その全ての可能性を捨てて中村佳穂というニュージャンルを築いていることが尊い

(C) Q-vism Who-ya Extended

PSYCHO-PASS3期のオープニングがかっこ良くて覚えていたが、AppleMusicで再会してたくさん聞いた。

刻んで歌うところと、インパクト遅めに伸びやかに歌うところのギャップがいい。

(D) escape ましのみ

一時期こればっかり聞いてた。

感情は最小限で理性的に刻んで歌うかんじがいい。

「ひ え て く 心の言葉」のところが好きすぎる。

(E) Cynical City 新東京

サビまでの小難しいかんじと、サビの明快さのコントラストが良い。

ボーカルの声がフィナンシェ並みにしっとりしていて、全体に上品さがある。

(F) 物凄いヴァイブスで魔理沙が物凄いラップ - MASPA!! Remix 魂音泉

元ネタを知らないままリミックスを好きになりがち。

東方の知識がまったくないので元ネタがなんなのか調べたけど、よくわからなかった。よくわからないけど、とにかく気持ちがブチ上がるので好き。

(G) 夢で逢えたら 吉田美奈子

AppleMusicで大貫妙子さんを起点にエンドレス再生していたら流れてきた。真っ直ぐシンプルに歌うだけで胸を打つ作品になるのがすごい。歌が上手いってこういうことだなと、じわじわ感嘆した。

(2) Yester Hits

(A) VIRTUAL DANCER ODD Foot Works

FIVE NEW OLDのToo Much Is Never Enoughという、聞くだけで夏の海へドライブに行く幻覚が見える爽やかなアルバムがあるんだけど、ODD Foot WorksがフィーチャリングのLibertyという曲だけが異彩を放っており(1曲だけ夜のライブハウスで聞きたいアダルティな雰囲気)、ずっと気になっていた。VIRTUAL DANCERを聞いて、夜のライブハウスどころか宇宙へトリップしてしまった。

ヒップホップ初心者も踊り出すメロディアスなラップが良い。繊細で切ないリフも良い。全部いい。

(B) KICKBACK 米津玄師

チェンソーマンアニメ、話は面白いしオープニングは米津玄師だしエンディングは好きなアーティストが週替わりで出てきて幸せが致死量だった。

こんなに悪そうに歌う米津さんは初めてだったので、目を瞑って頷きながらゆっくりサムズアップした。

爱丽丝」以来の常田大希様とのコラボということで、再びの神々の共演という事象にも沸いた。どこでもない場所からお届けの米津玄師ワールドもいいけど、常田様が加わることで曲が一気にアーバンになっていいですね。

(C) もっと泣いてよフラッパー 吉田日出子

少し前に上海バンスキングのベストCDをエンドレスリピートしていたんだけど、自由劇場の団員が演奏して吉田日出子さんが歌っている作品が他にもあると知り、大喜びでこのアルバムをダウンロードした。

アルバムとしては上海バンスキングの方が好きだけど、表題曲はフラッパーが好き。1920年アメリカ、美と退廃、狂乱と虚無感を鮮やかに表現する歌詞と、金管の艶やかさに痺れます。

自由劇場の舞台をリアルで見られなかったことが地獄の果てまで悔やまれる。

(D) ドーパミン ゲスの極み乙女

狂ったように何度も聞いた。

2周目の「イェイェイイェイイェイイェイイェイ」のところのハモリが美しすぎて鳥肌立つ。

川谷絵音の曲を歌う女性ボーカルって、感情を排除して決められた音に正確に当てにいく歌い方をしてる気がする。

表現したい音像が繊細すぎて、感情乗せてたら追いつかないからそういうディレクションなのかな、などと憶測は止まらないが、いつもそれで曲がまとまっているので素晴らしい。

(E) 残機 ずっと真夜中でいいのに。

ずっと真夜中でいいのに、久しぶりに聞いたら良かった。

大好きなボカロPのぬゆり様が、最初の秒針を噛むで編曲を担当されていたので勝手にレギュラーメンバーだと思っていたが、初期の数曲を除いて編曲は100回嘔吐さんが主でやっているんですね。

残機を含め過去曲を聞き返してみたところ、確かにこれはぬゆり様ではないなと思った。100回嘔吐さんはマイナスの感情を泣き笑いしながらライトに受け止めるみたいな曲が多いけど、ぬゆり様はマイナスの感情を地獄の果てまで追いかけて釜の中でぐらぐら煮立たせてから曲にしてるかんじがあるので(?)

ZTMYは100%ハッピーな曲があまりないところが好きだけど、100回嘔吐さんは悲しみの要素を軽妙でキャッチーな表現にしてくれるので、明るさと寂しさが絶妙なバランスで混在しており、それによって単純なポップソングになるのを回避していると思う。

今回もその辺が刺さってリピートした。ぬゆり様の、悲しみを鬱に倍々ゲームなアレンジも聞いてみたかったけど。

(F) 消灯時間 Füga-Füca

一昨年くらいにYouTubeA.R.Tを聞いて追いかけているアーティスト。声とメロディーが一度聞いたら忘れられない。

イントロと間奏の転調が好きだな。えっ下がるんだ!?という。

(G) たまらない予感 奇妙礼太郎

2018年秋、エロい関係を聞いて好きになったアーティスト。

〜茜さす帰路、民家から夕餉の香り〜的な曲調に、今っぽい恋愛の歌詞が乗るギャップがよい。

(H) CHAINSAW BLOOD Vaundy

周知の事実だけどVaundyは天才。作曲の幅が広すぎでは?毎回別人なので聞くたび誰?ってなる。

この曲でも新しい側面を見た。ゴリゴリのラウドロックっぽいAメロBメロと、ぎりぎりポップに繋ぎとめるサビと、VaundyをVaundyたらしめる美しいファルセットが絶妙なバランスで共存しており、色々な表現をしつつも自分の世界観を見失わないところがすごい。

(I) POP SONG 米津玄師

米津さんが新境地を開きすぎてて頭が追いつかない。

もう一人ですべての音楽ジャンルと歌唱法をカバーしてるんじゃないかと思うほど曲が多彩で困る(大歓喜)。

30代に入り、アーティストとしても絶大な成功を収めているのに、丸くなるどころか「POP SONG」というタイトルで捻くれ散らかした曲を書いてるの、本当に最高だな。

(J) Butterflies WONK

何年か前にCyberspace Loveを聞いてから気になっていた。改めて検索したらこの曲がヒットして、がっちり捕まってしまった。

一本の映画を見ているような重厚感。光の方を向きながら逆方向に抗い難く落ちていくみたいな救いのなさを感じた。

繊細な世界観の表現を可能にしている高度な技術に乾杯。

(K) Princess majiko

歌い手活動がメインだった時は無名でも噛み締めがいのある曲を選曲されていて独自の視点を感じたし、デビューしてからのオリジナル曲にも独特の世界観があり、昔も今も目指すものが明確にあるんだろうなと思う。

そして歌が上手すぎる。

この1曲の中だけでも色々な歌い方をされているので、改めて表現の幅の広さに感動した。

(L) 極楽鳥のテーマ (Bird Of Paradise) 中原めいこ

たまにエキゾチック全振りな癖の強い歌謡曲が聞きたくなる。

この人は歌は上手いし作曲も作詞も自分でしていて、しかも容姿端麗でアイドル的な魅力もあり、全方位で天才。

君たちキウイパパイアマンゴーだねほどのパンチはないけど、この曲はエキゾチックさと上品さが両立していて好き。

(M) 摩天楼 iri

2021年リリースので大好きになり、気づいたときにチェックしている。

おしゃれ系ヒップホップの戦国時代だけど、iriちゃんはいつも他と一線を画している。女性としては低い音域なので、お腹の方まで響いてくる音を聞き取っているような感覚があり、いつ聞いても新鮮。

2. 洋楽・その他

a. アーティスト

(1) New Commer

(A) 甜約翰(Sweet John)

2020年にエレファントジムという中国のアーティストを知ってから、C-popアツいなって思ってる。

このアーティストはYouTube親吻了再摸索がおすすめで上がってきたお陰で知った。

雨の日の午後のような憂鬱さと、透明感のあるイノセントなメロディーが心を掴んで離さない〜

全曲素晴らしいが、一番好きなのはDear。冒頭のハーモニーが美しすぎて神が見えた。

(2) Yester Hits

該当なし

b. アルバム

(1) New Commer

(A) Cape God Allie X

2022年、個人的最大のヒット。

リナサワヤマの関連アーティストで出てきたので聞いてみたら、曲も歌も激やばだった。

(ⅰ) 総論

音楽でも映画でも本でも、ある程度知識を得た段階でジャンル分けできるようになり、冷静になるときがある。前は何を見ても新鮮に感じたのに、最近は「どっかでみたアレ」に遭遇することが増えて寂しい。

そういうわけで、これまで聞いたことないタイプの曲を見つけると身を乗り出すし、それが好みの曲なら泣いて喜ぶ。

Allie Xのこのアルバムは久しぶりに「聞いたことないけどめちゃくちゃ良い」ラベルに分類された。

Cape Godは17曲入ってるデラックス版と、ライブで歌った8曲を収録したデジタルコンサート版がある。片方にしか入っていない曲があるので両方聞くべき。

ライブ版では恐らくデラックス版と同じオケに乗せて歌っている。デラックス版は譜面どおりに正しく歌うかんじだけど、ライブ版は歌の熱量が高く、同じ曲でも結構差がある。まずはデラックス版を聞いて基礎固めをしたあと、ライブ版を聞くのがおすすめです。

(ⅱ) 各論

Fresh Laundry

1曲目にはアルバムの方向性を示唆する役割があるけど、この曲はその役割を超えて、むしろ撹乱しにかかっていて良い。

“I want to be near fresh laundry” という冒頭がもう半端ない。英語が得意でなくてもわかる平易な一文から、状況と心情の深刻さがひしひし感じられる。

解釈はそれぞれだと思うけど、混迷の中に安寧を見出しているかんじが不安すぎて、こちらの情緒も千々に乱れる。

Regulars

ベースのリズムが好きすぎる。

それと音域の広さが際立っている。ライブ版の低音の響かせ方がえぐい。

Sarah Come Home

めちゃくちゃ好き。明るいメロディーで気持ちが弛緩。

サビの後半で「Come home」を繰り返すところのオクターブユニゾンが美しい。

Bitch

英語ができないので洋楽の歌詞は諦めがちだけど、この曲は言葉が簡単なのでなんとなく理解。まず歌い方で色々察するよね。Boom Boom!

Rings a Bell

立ち上がり平和でBメロで光の方向へ助走するのに、サビで顔のない兵隊が行進を始めるので(幻覚)大喜びである。

June Gloom

他の曲の癖が強くてそこまで目立たないけど、繰り返し聞くと染み渡る。6月の穏やかで鬱々とした空気感が鮮明に伝わってくる。

Love Me Wrong

デラックス版のデュエットもいいけど、ライブ版の全部自分で歌ってる方も好きだな。こちらもライブ版の低音がえぐい。もはや人間ではなく楽器。

Super Duper Party People

このアルバムで一番好き。

歌だけじゃなくラップみたいなこともできるんだなって。

英語圏の人に言うことじゃないけど、発音が美しいなと思う。響きが素朴で上品なかんじがあって好き。

Susie Save Your Love

中盤で静かに存在感を放っていて好き。

Madame X

名曲。他の曲に比べて一般受けするように作られている気がするけど、そこをストリングスが掻き乱すので、聞きやすいのに聞き流せない緊張感が絶妙。

Cape God Theme

少年合唱団並みのイノセントな歌声で、Bitchのときと比べると別人。天使とか精霊とか神聖なものに対して抱くような、畏れの感情すら湧いてくる。

Milk

Cape God Themeとまったくスケール感が違うけど、近くに戻ってきてくれたみたいで安心する。

衒いのないメロディーがいいね。

Limited Love

15曲目でまだこんな元気な曲のストックがあるなんて。一枚のアルバムで情報量が多すぎる。

Anchor

どことなくエキゾチックで、最後から2番目の曲で新しい要素を出してくるところに持久力を感じる。

全体を通して飽きさせない作りになっており、何度も聞きたくなるアルバムです。

(B) Line by Line Prep

AppleMusicでエンドレス再生していたら流れてきて、声が魅力的だったのでダウンロードした。

全体的に80年代のシティポップみたいだな〜と思って聞いていたら、やっぱりシティポップ好きな人たちが作っていた。自分もNight Tempoのリミックスのお陰で80年代の邦楽に目覚めつつあるので、海外への逆輸入現象を目の当たりにして興味深い。

表題曲のLine By Lineのイントロを聞いて思ったけど、ユーミンの曲でも同じような音を使っていた気がする。「汀」ってかんじのファンファンした音が時を超えてチル。

(C) Spectral Sunshine Parade The Mirrors

レトロでかわいらしい。2.3曲目(Sunshine on a Rainy Day Mikimoto Pearls)は聞くだけで笑顔になる。

(2) Yester Hits

(A) The Juniper Songbook Summer Salt

一昨年、Happy Camperを聞いて好きになったアーティスト。このアルバムでアコースティックバージョンを聞いてさらに好きになった。

特にOh Dearはアコースティックの方が身近に感じられて好き。

気持ちが波立っている時も、これを聞けば地平線並みに平らかな心持ちになれる。

(B) Harry's House ハリースタイルズ

ハリースタイルズは2回前くらいのグラミーでWatermelon Sugarを聞いたのをきっかけに聞き始めた。イギリスのアイドルとしてしか認識していなかったけど、ただのアイドルじゃなかった。

一つ前のアルバム「Fine Line」は一曲一曲の粒立ちもさることながら、アルバムとしてまとめられたときに一つの大きな流れを形成していて、最後まで聞いたあとにまた1曲目から聞くことを促されるような力があった。体感100万回聞いた中で、ハリースタイルズがアーティストとして成功を収めた理由をしかと理解した。

そんなわけで次のアルバムを非常に楽しみにしていたので、Harry's Houseはリリース後すぐにダウンロードした。

コロナ禍で自分と向き合う時間をもって生まれたアルバムということで、前作よりも内省的でミニマルな印象。あまりにもポップでカームなおうち時間。アルバムタイトルに「House」とあるけど、家にいるときみたいにリラックスした印象を与えつつ、結果的にめちゃくちゃポップで広く世界中の人に受け入れられる曲を作れるのがすごい。ポップスターとはこの人のためにある言葉だと思う。

8曲目のCinemaが最高。

 

c. 曲

(1) New Commer

(A) Guardian Angel JUNO REACTOR

TEXHNOLYZEというアニメのオープニングテーマ。30年近く前の作品だけど、かっこ良すぎてアルバムごとダウンロードした。

インストは展開がないと寝てしまうものだが、この人の作品はメロディアスで劇的な展開が畳み掛けてくるので眠る暇もない。この曲では特に、すべての音が意味のある動きをして有機的に絡み合いながら、最終的に無機質な世界観を演出しているのが最高にクールですね。

アルバムを通して概ね新鮮に感じられるけど、5曲目に突然日本語でセリフが入るSamuraiという曲があって、こういうのを聞くと時代を感じる。ベストキッド2とかワイルドスピードTOKYO DRIFTとか、割と最近まで日本文化への誤った理解と偏った憧憬が欧米を席巻していた。

ベストキッド2で主人公が沖縄にやってきて、現地の日本人と真顔ででんでん太鼓を叩くシーンは一生忘れられない。

(B) American Boy エステル

10年以上前に流行った曲みたいだけど、全く知らなかった。

YouTubeが唐突におすすめしてきて、聞いてみたら最高だった。

R&Bもイギリス英語にかかればこんなに上品になるけど、それを切り裂くカニエウエスa.k.a. American Boyのラップがまた良い。

(C) hey girl boy pablo

神経が弛緩する作用がある。PVを含め癒されるのでおすすめ。

(D) Dancing with my phone HYBS

こちらはタイのアーティスト。T-POPもアツいわね。

これも80年代シティポップ的雰囲気があってちょっと懐かしいのに、音楽再生機としてのスマートフォンと一緒に踊るっていう歌なのが面白い。

音楽が世界的に懐古主義に走っているけど、スマホの汎用性からは誰も逃れられない。

(2) Yester Hits

該当なし

 

次回はボカロ回です。

それではまた。

長野叙事詩

前書き

こんにちは。

このページでは、筆者が出張中に作った62首の短歌を公開します。

 

【基本情報】

・筆者:社会人2年目(F)

・出張先:長野県長野市

・期間:2021年5月30日〜7月30日

・62日間の出張中、1日1首のペースで短歌を制作

・これが初めての一人暮らし

・歌詠みの素養はなし(これまでに読んだ歌集は「サラダ記念日」のみ・最後に短歌を作ったのは小学校の国語の授業)

【制作の目的】

①毎日のルーティンを作り、安定した生活リズムの定着をはかること

②思考を言語化することで精神状態を冷静に俯瞰し、慣れない環境に飲まれないようにすること

③初めての一人暮らしの模様を記録し、後々思い返せるようにすること

【なぜ短歌なのか】

・五七五七七のリズムが好きだから

・文字数に制限があるので、考えを簡潔にまとめられると思ったから

【タイトルについて】

・「長野叙事詩」は、ミュシャの連作絵画「スラヴ叙事詩」のもじり

・「スラヴ叙事詩」と「長野叙事詩」の

①共通点

・連作である

・「スラヴ」「ナガノ」がどちらも三文字の地名

②相違点

・題材とサイズ

 ミュシャ:自身のルーツであるスラヴ地方の歴史と神話を、縦横数メートルの作品20枚にまとめた

 筆者:「初めての一人暮らし@長野県」の模様を、縦13センチ・横6.5センチのiphoneでまとめた

・社会的意義

 ミュシャ:芸術・民俗学など多方面で意義深い

 筆者:ない

・制作地

 ミュシャ:欧州の中心

 筆者:本州の中心

・制作中の想い

 ミュシャ:残りの人生をひたすら我が民族に捧げる※

 筆者:早く実家に帰りたい

※引用元:「スラヴ叙事詩」『ウィキペディア フリー百科事典日本語版』スラヴ叙事詩 - Wikipedia

最終更新日時:2022年1月25日 (火) 21:53(日時は個人設定で未設定ならばUTC)/アクセス日時:2022年2月26日(土)20:30

【凡例と注記】

・歌の冒頭に日付を付し、一日一首の体裁をとっていますが、厳密にその日のことを書いているわけではありません(たとえば軽井沢旅行は1泊2日でしたが、ネタ数が実日数を上回り、6日分を要しています)。

・初日と最終日を除いた60首を、下記6テーマに分類しました。上から順に読まれることを想定していますが、目次からお好きなトピックへ遷移することもできます。

 環境》•••周囲の環境について

 散策》•••徒歩圏内を散策した記録

 生活》•••生活の様子

 遠出》•••電車/車で遠出した記録

 音楽》•••期間中に聴いた音楽について

 日常》•••何でもない日に考えたこと

・初日と最終日分の2首は、最初と最後に固定で配置しています。

・必要と思われるものに、キャプション(小さい文字部分)と写真を付しています。

・関連情報等、リンクを貼り付けた箇所があります。よろしければご覧ください。

 

 

開幕

5/30(日)

 車窓から眺める畑 燃えそうな納屋を探して もうすぐ長野

 村上春樹の短編で、他人の納屋を無許可で燃やす男の話があって、畑を見ると思い出す

 螢・納屋を焼く・その他の短編

 

環境

5/31(月)

 姦しく鳴るステンレス 信州の風の花道 右端の窓

 会議室のブラインドが風になびく様子

6/7(月)

 優しげなおじさん社員の掌に 赤い傷跡 もしや神の子キリスト

 中間管理職で色々十字架背負ってそうだったから、あながち間違いではない

6/10(木)

 西友は 我が友 まじ神 救い主 5分で行ける食の楽園

 徒歩5分の場所に西友がオープンしたときの喜びを詠んだ歌

6/9(水)

 飲み会を人事にチクる管理人 あなたを見守るビッグブラザー

 マンションの管理人が夜中の監視カメラ映像を逐一確認して、夜遅く帰ってきた社員を見つけては弊社人事に告げ口しており、本物のディストピアだった

 一九八四年

6/2(水)

 食堂のおばちゃん 朝から大声で挨拶 優しさが疎ましい

6/11(金)

 NHK イヤホンでシャットアウトして キリンジと飛べ アルカディアへと

 食堂のテレビがNHK一択で苦痛だった

 キリンジ - アルカディア

6/20(日)

 へべれけの女のような空模様 泣き上戸ならずっと泣いてろ

 山が近くて、天気が定まらない日が多かった

6/22(火)

 長野県各地の定点カメラから 眺む街の灯 大雨警報

 夜景と雨がきれいで、豪雨の様子が放映されているチャンネルをずっと見ていた

 

散策

飲食店

6/12(土)

 徒歩でしか見つけられない店がある 休み短し 歩けよ乙女

7/14(水)

 店員の女の子に自分のことを ”ボス”と呼ばせる寿司屋の大将

 外国人の何もわかってなさそうな女の子が言いなりになっていた

 高砂寿司

6/26(土)

 二等辺三角形が皿に伏し 峰を連ねる お好みで塩

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 サンドイッチの上にポテチを乗せる粋な計らい

 山と渓谷

7/2(金)

 モノクロのジェームズディーンの眼差しに 射られ俯きカレーを掬う

 カレー屋の店内に、哀しい瞳のジェームズディーンの写真が飾られており、目の遣り場に困った

 カレーショップ山小屋

7/8(木)

 私的喫茶三箇条 一、薄暗く 二、マスター高齢 三、別珍の椅子

 三箇条揃い踏みの喫茶店

 三本コーヒーショップ 長野店

7/15(木)

 「水尾」なる地酒 酩酊 週半ば 寄る辺なき身と浮遊する夜

 甘くて初心者でも飲みやすいが、枡で出されてしたたかに酔った

 高砂寿司

7/9(金)

 金髪のあんちゃん 喫茶店でひとり 燻らす煙草 何を想うの

 三本コーヒーショップ 長野店

その他

6/1(火)

 駅前は5分歩けば閑古鳥 街を肥やしに駅舎は育つ

 駅だけは立派

 Nagano Station

6/13(日)

 うらぶれた古本屋の100円コーナーに必ずいる 中上健次

 古本出張買取のだんち堂

6/19(土)

 図書館の貸出券をもらうため 司書の優しい女性を騙す

 3ヶ月以上滞在する予定がないと貸出券が作れなくて、仕方なかったんだよ

 県立長野図書館

6/3(木)

 交差点 歩道に埋まる小鳥たち 均一な眼を踏んでくすませ

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7/12(月)

 店内でUKロックを流しつつ 店頭で推す 尾崎世界観

 古本屋の店内で思想の対立が起きていた

 遊歴書房

7/25(日)

 女湯の平均年齢75 半世紀後の自分を探す

 亀の湯

 

生活

7/13(火)

 山積みの洗濯物の下敷きになっている本 これが生活

6/29(火)

 包丁がギロチンならば 罪人はゴボウ 料理という名の処刑

6/23(水)

 重低音重視のポータブルスピーカー 隣を気にし 絞る音量

 控えめなパリピ

6/8(火)

 大豆田とわこのために9時までに 炊事洗濯済ませ着席

 リアタイはテレビの醍醐味

6/27(日)

 朝食がケーキだけでも誰にも怒られない もう大人だからね

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 Happy Birthday to me

6/24(木)

 丁寧に暮らす雑誌を読みながら 部屋の掃除ができない女

7/6(火)

 まな板にトマトの赤が沈着し 擦れど消えぬ 永遠の罪

6/5(土)

 八百屋にて蕨を一把勧められ 部屋で灰汁抜き 晴れた週末

 

遠出

上田

6/6(日)

 路地裏は無人 寂れたスナックを太陽が灼く 白き頽廃

 映画を見に行ったんだけど、思ったより閑散としていた

帰省の車窓から

6/18(金)

 沿線のひどいホテル名選手権 優勝 カーニバルプリンセス

 2位はホテルカリヴィアン

白馬

7/4(日)

 白馬村 ゆるキャラ 村男Ⅲ世の 希薄な存在感がやみつき

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 本名:ヴィクトワール・シュヴァルブラン・村男Ⅲ世 これは思わず購入したランチバッグ

7/3(土)

 古ぼけたロッヂの看板 80’sエイティー もう来ない 恋人たちの冬

 ロッヂで待つクリスマス

7/5(月)

 「綺麗だね」 霧で見えない花畑 まことしやかに褒めて笑って

 白馬五竜高山植物園

戸隠

7/22(木)

 温かい生き物のよう 天ぷらを噛み締め嚥下 戸隠の蕎麦

 戸隠神社、山の上にあるので参拝は体力勝負

 ​​蕎麦 二葉屋 葉隠

軽井沢

7/19(月)

 時がる 老舗ホテルのティールーム 歴史の澱に揺れる木漏れ日

 テラス席でのひとときに放心して、ろくに観光しなかった旧軽井沢

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 万平ホテル カフェテラス

 経る時

7/20(火)

 別荘地 施しめいた老人の道案内 ノブレスオブリージュ

 軽井沢に別荘があることを暗に自慢しながら頼んでもない道案内をしつつ、ポケゴーで狂ったようにスマホをタップするアクの強いおじいちゃんに出会った

7/18(日)

 窓辺から朝日差し込み 壁面に映る 光のシネマトグラフ

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 Film Noir

 Memories Lodge 

7/17(土)

 露天風呂 夏の星座を湯煙が覆い 朧に見える瞬き

 明らかに北欧出身のマダムがサウナと水風呂を行き来しており、本場の整いを見た

 トンボの湯

7/16(金)

 ガラス窓 午後の光とアンティーク すべてが琥珀色になるとき

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 食堂の窓辺に並ぶアンティーク雑貨

 Memories Lodge

7/21(水)

 茜から薄暮へ向かう私鉄線 空と私を夜へ運んで

 旅行の帰りの電車って世界で一番寂しいよね

 

音楽

6/14(月)

 朝流す くるりの東京 初めての一人暮らしは長野でしたが

 東京

7/1(木)

 米津玄師のアルバムを新しい順に再生 すぐそこに夏

 夏になると聞きたくなる

6/15(火)

 浴室で静かに歌うラテン語が アイルランドの風を運んで

 ANÚNA  Media Vita

7/10(土)

 ビートルズ 横断歩道で流れだし わたし ジャケ写の一部になって

 中高で所属していた軽音部のバンドメンバーで歩くとき、なぜか自然に一列縦隊になっていくので「ビートルズみたい」と笑っていたのを思い出した。メンバー6人いたけど

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 Abbey Road

7/26(月)

 歌声の綿毛のような危うさに 去りし日を見る 青いアルバム

 LSC

7/24(土)

 夕暮れの商店街とクボタカイ アーバンになりきれぬ親和性

 来光

 

日常

6/16(水)

 コンビニのサラダに詳しいOLになって 何かが摩耗していく

6/17(木)

 猫がいる窓に釘付け 大人たち 始業まであと残り15分

 一軒家の窓辺に座っている猫を、通勤途中のサラリーマンが外から愛でている朝の光景

7/11(日)

 平日は着ない白地のワンピース ひらり羽織って歩く週末

7/7(水)

 そういえば今日は七夕 曇り空 梅雨の逢瀬はついぞ叶わず

6/4(金)

 真夜中の触れられそうな静寂を鼻歌で割る 小さい抵抗

6/21(月)

 帰り道 裏路地にり見失う いつもの道程 夏至の夕暮れ

6/28(月)

 図書館の本にスペ3 置き土産 ジョーカーに勝つ術はもうない

 スペードの3を栞がわりに挟んだまま忘れて返却した人、大富豪やるとき切り札ないなっていう

6/30(水)

 毎朝のルーティン コンビニで立ち読み OZ  Hanako  POPEYE  &Premium

 独房(自室)と会社を往復するだけの毎日だったので、雑誌を見て気持ちを保っていた

7/23(金)

 東京で五輪開幕 私だけ長野五輪 冬季やあらへんで

 リュージュすごかった(幻覚)

6/25(金)

 仰向けで耳まで浸る40度 生まれる前に聞いていた音

7/27(火)

 暗い部屋 窓からの光が頼り フェルメール作・眉を描く女

 光の魔術師ってな

7/28(水)

 少しずつ部屋から荷物娯楽が消えていく 小川洋子の小説みたいに

 スピーカーを自宅に送ったあと、部屋から音楽がなくなってつらい思いをした

 密やかな結晶

7/29(木)

 飲み会のあとの入浴 喧騒が去って 寡黙な女に戻る

 

終幕

7/30(金)

 2ヶ月をひとり過ごした角部屋の 窓から西日 淡い別れの

 

編集後記

長野叙事詩の制作は、出発前から決定事項でした。

ぬくぬくと実家で暮らし続け二十数年。料理も洗濯も掃除もできない私は、長野県への長期出張を命じられた時、死を予感しました。

ご飯が作れなくて飢え死にエンドか、部屋の掃除ができずにゴミ屋敷エンドか、またはシンプルに寝坊して社会的な死を迎えるのか。。出発の日が近づくにつれ、不安は増幅していきました。

結構本気で切羽詰まっていたので「一旦落ち着こう」と思い、不安を和らげるために何ができるか考えた末、連作短歌の制作を思いつきました。

今思えば全く落ち着いていなかったと思います。半月ほど経って生活に慣れた頃、「いやなんで短歌だよ」と思いました。老後か。

 

自活への不安がなくなったあとも、短歌の制作は予定通り続けることにしました。決めたことは最後までやり通したいと思ったことと、今回の一人暮らしの模様を記録に残しておきたいと思ったためです。

「一人暮らしの模様」とは、単に生活の様子というだけではなく、その時々の感情や空気感などを付加した、個人的な記憶の総体です。題材にした出来事は様々ですが、ほとんどの歌は自室のワンルームで考えて書いたものです。見返した時、その大半から白い正方形の部屋が連想され、そこで営んだ生活と空気感・心持ちなどが蘇ります。

部屋は独房を思わせる狭さで、自分の料理はあまり美味しくなく、素敵な一人暮らしには程遠い毎日でした。しかしそれ以上に、自分の手で自分の生活を作る心地良さを感じた2ヶ月でもありました。

その快い記憶を直接的に言い表すことは難しかったため、今回このような形で記録を残せたことは良かったと感じています。

 

出張中「毎日一首作る」という計画は2週間で破綻したため、週末に複数個捻り出したり、ネタをストックしたりしました。

50首ほどが出来上がった状態で出張期間が終わり、帰還後に加筆修正を行いました。日数に足りない分を追加し、内容が薄いものは重要度の高いネタにすり替え、語感が気に入らないものに微修正を加えました。

添削に集中し続けると判断力が鈍り、最終的に全部駄作に思えてくるため、途中で1ヶ月程度の休憩を2回挟んでいます。書いたものを見るのが嫌になった段階で一度作業を手放し、客観的な判断ができるようになるまで時間をおきました。

 

とはいえ直したいところは際限なく出てくるため、推敲は半年で切り上げ、最後の2ヶ月で公開方法について検討しました。

はじめは全てまとめてTwitterに投稿する予定でしたが、文字数が想定より膨大であることから、ブログで公開することを思いつきました。

ドキュメントからブログへの移行作業・画像とリンクの貼り付け・目次の作成・前書きと編集後記の執筆(←言ってみたい)に時間を要し、気づけば出張終了から8ヶ月近くが経過していました。

かけた時間に見合う大作にはなりませんでしたが、突然短歌を作り始めて、突然大層なものを目指すのも変なので、これはこれで良いと思っています。それに、制作の目的はあくまで筆者の備忘録であり、その点では満足いくものになったのでOKです。

多くの人に喜んでもらえる内容ではありませんが、たまたま最後まで読んでしまった方は、お気に入りのものを一つ見つけるなどしてください(丸投げ)。スラヴ叙事詩ほどの感動はないにせよ、少しでもいいなと思える部分があれば幸いです。

 

最後に、それらしく謝辞を述べたいと思います。

出張期間中に筆者を心配し電話をくれた方、メッセージやプレゼント(感激)を送ってくれた方、長野県内で旅行を企画してくれた友人・家族、長野叙事詩の制作を応援してくれた方々、そしてここまで読んでくださった奇特な皆様へ、改めてお礼を申し上げます。ありがとうございました。

このブログを続けるかは未定ですが、機会があれば更新したいと思います。

ではまたどこかで。